今年の春ドラマを見ていて、「!?」と思いつつも女優さんの力量によってなんとなく納得して見続けているドラマがいくつかある。筆頭にあげたいのがNHKの火曜ドラマ「燕は戻ってこない」である。

 

最近はあまり使われないのでポリティカリーコレクトではないのかもしれないが、いわゆる「ワーキングプア」の女性と富裕層の夫婦、その母親を中心に描かれるドラマで、初めて聞くが原作となる小説(by桐野夏生さん)があるようだ。ザ・格差社会にとどまらない「産む、産まない、産めない」「女性とは」「自己実現VS非自己実現」をめぐる様々な人間模様がテーマだ。

 

主演の石橋静河さん演じる大石理紀は真面目に生きているし、努力もしている、無垢な印象さえ与える人物だが、時々賢いとは言えない行動をしてしまう。人間だから常時完璧な判断ができるわけではないし、誰かによりかかりたいのもわかるが、もうすこし賢いしたたかさがあってもよいかなと思うことが多い。前回放送では富裕層夫の母、黒木瞳さんがこの理紀の話を聞いて、後で思い切りディスっていてひどいと思ったが、私の中にもこの両者に共感する二つの要素があることは否定できない。

 

それにしても理紀がただの愚かな女性に見えず、ひたむきさを感じうる要因が石橋静河さんの愚かながらも誠実かつ純粋、真面目に生きようとする表現の賜物だと思っている。流されながらも悲壮感は最小限で、場合によってはしなやかな軽やかささえ体現される。そうでなかったら理紀には腹は立つわ、富裕層夫母の傲慢さに不快になるわで、もう見るのをやめていたかもしれない。

 

今後どうなるかわからないが、理紀の個性を認めた春画作家のりりことの出会いで、理紀の未来に可能性が広がっていくとか、少し希望が持てるといいなと思っている。こんな風に自分を評価している人とも、代理母のことがなければ出会う機会さえ持てなかった社会の構造の是非もこの作品のテーマかもしれない。

 

同じように主役が違ったら「(# ゚Д゚)」となり、見続けられなかっただろうドラマが「くるり」だ。心に闇を抱えているような、ただキャピっとしているような、でもかわいくてモテモテみたいな「どれやねん!」と腹立たしくてイライラしてもおかしくない設定なのだが、めるるの人徳で何となく見続けているのが現状だ。少々ミステリー要素もある感じなので、「誰がめるるにケガさせた」がわかるまで視聴するつもりだ。

 

さて、もう一つは「肝臓を奪われた妻」。これは「こんな家族がいるならすぐに訴えたほうがよい」と思ってしまうほどひどい家族に復讐するストーリーだが、伊原六花のピュアなかわいさが、このどろどろの犯罪家族の恐ろしさを中和し、見続けている。30分ドラマなのでお手軽に見られるところもよい。

 

そんなわけで、女優陣の好演のおかげで2024春クールもいろいろなことを考えながら楽しませてもらっている。