今、私の部屋には鉢植えが5個ある。

 

先日、そのうちの一つ、水のやりすぎで弱ったり、持ち直したりしているサンスベリアを受け皿ごと持ち運びが楽なように麻の袋に入れようとしたその瞬間、何かがうごめいた。

その生き物はサンスベリアの葉を瞬く間によじ上り、隣のカポックの木の上に落ちさらに動きを続けている。

 

田舎であるがゆえの遭遇。

都会にはほとんど現れないだろうが、私の部屋に数年に一度出没するムカデの再来である。

昔の武将にはムカデを旗印や兜のデザインにした人もいるようだが、触覚みたいなのが動いたりして、極めて気味の悪い風貌だ。

今回体長は十数センチ程度といったところであろう。

 

最初の出没時は「ギャぁぁぁぁぁー!なぜこんなものが私の部屋に?????」と声にならぬ叫びをあげながらキンチョールをふりかけ、最後はビニール袋越しに完膚なきまでに踏みつぶした。血圧も急上昇していたことだろう。ちなみにムカデが来るとは思わないので、我が家にはキンチョールしかないが、意外とムカデにも黒いGにも効いた。

 

別の日家の外で見かけたときは狂った殺人鬼のように、スコップを振り下ろし、原形をとどめないほどにたたきのめしたりもした。

 

私はムカデと対峙する時、いつも自分の中の狂気を知る。

 

一方、ムカデとの戦いを何度か経験しているとだんだん冷静になってくる。

 

もちろん油断は禁物だが、命まで取られないことを知っているからだ、、、というより私がいつも彼らの命を奪っているのだから彼らの方が恐れているに違いない。

 

今回は「何かいらない布などで包んでからつぶせばいいや。何ならそのまま外に逃がしてあげようかな。」などと悠長な感じで布を手に戻ると、殺気を感じたのかムカデは素早く電子ピアノの下にもぐってしまった。ピアノの下をやみくもに殺虫剤で汚染するのも嫌だ。もう手も足も出ない。

 

ある意味ムカデのベテランになりつつある私。その夜はとても眠かったし、ムカデとの決戦は諦め寝ることにした。夢の中でムカデが顔の上を這っていたが、夢なのか現実なのかはもはやよくわからなかった。

 

さて、それから1週間以上たつが、鉢を動かしていない現状、ムカデは姿を現していない。鉢の下にそっと隠れているのか、来た時と同じようにこっそり出て行ったのかまったくわからない。

ただ、姿を現さないムカデはいないのと同じで、私には何の害もないのである。

 

最近熊出没のニュースが多く、とても恐い。

 

危険の度合いが違うので同じレベルで議論したらお門違いだ。同時にムカデとのルームシェアの教訓から、お互いの領分をうまく守っていれば、共存もできるのではないかとも思っている。

 

そもそも私たちはムカデにも、熊にも遭遇したくないし、あちらもキンチョールを噴射してくるかもしれないし、スコップでめった打ちにしてくるかもしれないような私たちには遭遇したくないのだ。

 

お互いこの世界に一緒に住んではいるものの、例えばムカデなら鉢を持ち上げなければ私の気配がする時はあっちもそーっとしているのだからあえてあちらの領域を侵すようなことをしなければいい。

 

人間に害を及ぼすようになってしまった危険生物は駆除するしかないと思う。しかしそれは最善の策か私にはわからない。

熊が一度人間を恐れなくなったり、人間の肉の味、家畜の肉の味を覚えてしまうと駄目なようだが、そうなる前に、うまく熊の領分を侵害しないように、私たちの領分を侵害させないように知恵を絞れば、うまく顔を合わせず暮らしていけるように思う。

 

そしてそれができるのはどちらかというと熊サイドではなく、人間サイドではないだろうか。

 

お互いの領分を冒さず共存することは対人間の関係でも大切なことだとムカデに教えてもらった気分だ。ただ、ひどい実害がある地域では本当に早急な対策を講じなければならない。これ以上恐い思いをする人、傷を負わされる人が出ないことを願ってやまない。