別に今日が土旺の丑の日
というわけではないんですが。
世間では土用の丑の日というみたいですね。
夏バテを防ぎ、スタミナをつけるために
鰻を食べる日、くらいの認識でしょうか。
田舎の方で農作をやっている家だと
土旺は土いじりをしてはいけない、
という昔ながらの風習に従って
種まきなどの時期をずらす所もあります。
(水やりや収穫、摘心等のお世話は必要ですから
基本的には開始がダメという論理。)
もともと土旺とは季節の代わり目で、
立冬、立春、立夏、立秋、
この前18日間に土旺期間が配されています。
三合会局と方合の終点であり、
季節が死んで生まれ変わる墓庫が土旺なんですね。
この期間は土の神(土公神)が支配しており
家を建てる、井戸を掘るなど土を動かし
土木作業を行うと様々な禍があると
信じられてきました。
現代ではこのうちの夏土用のみが
風習として残り、
古い農慣習を守り続けている家や地方のみ
四季の土旺月信仰をきちんと理解して
暮らしていると思われます。
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今年の立春は2/4,立夏は5/5、
立秋は8/7、立冬は11/7。
したがって
冬土旺は1/17~2/3
春土旺は4/17~5/4
夏土旺は7/20~8/6
秋土旺は10/20~11/6
うち一般的に知られる
7/20~8/6の夏土旺の中の、丑の日を
土用の丑の日と呼んで風習化しているわけです。
すると暦を見ますと2022年は
7/23丁丑、8/4己丑、
この二日が正式な土用の丑の日に該当します。
まぁスーパーの鰻の特売とかは
どうなんでしょうかね。。
とりあえず期間内はずっと
鰻押しで頑張るのでしょうか。
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折角ですから考察してみましょう。
まず土旺の○日、というのは
夏のみではなく、春夏秋冬それぞれに
元々風習としてあったようです。
それは
冬土旺の未日、
春土旺の戌日、
夏土旺の丑日、
秋土旺の辰日、です。
ピンとくる方もいるでしょうが
冬土旺は丑月で対冲の未をぶつけている。
春土旺は辰月で対冲の戌をぶつけている。
夏土旺は未月で対冲の丑をぶつけている。
秋土旺は戌月で対冲の辰をぶつけている。
ということが分かります。
つまり墓庫冲開⇒
土のエネルギーの減衰の技法なんですね。
なぜこのような理論構成になったかと言えば
蔵干を考えれば良いでしょう。
未蔵干は木火、丑蔵干は金水でバランス、
辰蔵干は水木、戌蔵干は火金でバランス、
よって月運と日運で中庸バランスを求めた、
という見方が出来ます。
この日に食べるものは
日運の十二支に縁あるものですから
兎に角、対冲させて月令を弱めたいわけです。
特に夏の未月は暑くて乾燥し、
体内も乾いてしまうため、
水気や金気を補う事は肉体的にも
良い事といえます。
鰻はまさに腎の保養となる食材で
精を付けるのに最適な食材の一つです。
宿命に水気がなく、水が守護神、
みたいな人は特にきちんと食べるべき食材です。
何か似ているものを想起しませんか?
ということでこれは守護神法そのものなんですね。
月令に対してバランスを採るものを
守護神、喜神と捉える。
四柱でいえば調候用神法そのものです。
別に難しい事ではないのです。
冬は体を温めるものを取り、
じめじめしたところではなく、
太陽の当たるところで暮らし、
暑い夏は体を冷やすものを取り、
水分を補い、涼しい所で暮らしなさい、
秋は乾燥に気を付け、潤いを与え、
春は湿気に気を付けなさい、
寒暖燥湿のバランス、
それだけの事なんですね。
そして人間は自然に生きていれば
月令に対してバランスを採る生き方を
求めるのだということが分かります。
見方を変えますと人間は常に
先天環境(月令)に与えられたものではなく、
無い物ねだりで生きていく、
自分にないものを欲として求め続けていく、
そういうことも言えるでしょう。
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もう少し深く考察しますと、
各地方の陰陽五行祭祀の多くが冬(陰、鬼)を払い、
春(陽)を呼び込もうとする行事が多いように、
土旺に対して古代人は
殺気を恐れたと思います。
この殺気とは土の両義性に起因し
土が万物を生み出す一方で
万物が死んで土に還る、
畑でありながら墓でもある、
まさに土(大地)は生死の扉である
という思想から来ています。
似た所でいえば古代中国では
歳星信仰(木星信仰)の対極で
太歳神を恐れる一つの信仰があったわけですが、
この太歳神は土性に還元されるんですね。
天に木星がある時、太歳は地中にあるわけです。
そして古代中国では死んだ人間の魂は
天に昇り、崑崙山にたどり着く一方で、
魄は地中の世界に沈み込み、
そこには黄泉の世界があると考えていました。
ですから土というものは
死人の世界の入り口としての
恐ろしいものでもあったのです。
(霊廟としての墓は北に在位
⇒祖先信仰は北を主軸とする。
六方位における天地のうち、
天が精神的魂の行き先⇒崑崙信仰、
中央土性が肉体的魄の行き先
⇒土性、地中が黄泉に該当)
西洋占星術でも木星を吉星とし、
土星を凶星(苦手意識)と捉えますが、
なかなか面白い類似性だと思っています。
おそらく東西の占星術のルーツは
どこかで交差しており
それゆえに共通部分があると思います。
季節が循環する上で必ず変わり目に配される
土性月においては、正常な季節の運行の為に、
土が悪さをしないように、
つまり作物を枯らしたり、地震を起こしたり、
農作物や人に疫病が出て
地中に還る死者が増えないように、
こういう思いを込めて、
土旺月の風習は生まれたものだと思います。
纏めると土旺風習の陰陽五行的意味、
その個人的推論としては
①土旺に土をいじってはいけない
⇒季節が死に、土の墓庫、殺す作用が
最大限に働いている時に
軽々しく土に触れることは、
死者の世界に触れることに等しく、
またあるべき季節循環を妨げてしまい
禍を生ずるので避けなさい、
②土旺月に対冲日をぶつけて
対冲地支に関する食物を食べる
⇒月令土旺の力を減衰させる、
中庸化させるための一つの儀式、
またその季節における養生法としての
庶民の生活の知恵の継承⇒風習化
こういう考察が出来るのかなと思います。