女の子の体は黒使の一人に抱えられ、木で出来た家の壁に、躊躇無く思いっきり叩きつけられました。
ずるずると女の子の体が倒れます。
顔を覆っていた手も、力なく下りていきました。痛みにぼんやりと虚空を彷徨う黒い瞳が、か細く開いています。
さっきと違う黒使が、そんな女の子の胸倉を掴み上げ、今度は光を放射している小さな宝珠の前に置かれた処刑台へと、女の子の体をぶんと投げました。
投げられた女の子の背中が処刑台の壁に触れると、処刑台から幾本のもの鎖がばらばらと現れて、女の子の体を縛めました。
胸から下を漆黒の鎖に覆われた女の子の頭はかくんと下がり、意識がないことをはっきりと物語っています。

家の中はどこまでも真っ暗でした。
その中で、奥へと続く扉だけがぼんやりと輝いています。
女の子はそちらのほうへと招かれ、依然何も知らないまま乞われるままに扉を開けました。
途端。
ぼんやりとでしかないと錯覚していた光は、女の子が扉を開けた瞬間何倍にも膨れ上がり、光を直視してしまった女の子の視界を奪いました。
痛みすら感じる闇の中で、手で顔を覆った女の子は、自分の体が突然地面から離れてしまったことを感じます。
急に訪れた、地面に足が着いていない浮遊感に、女の子はぞっとしました。
ですがその束の間、何かに強く惹き付けられるように数瞬「飛び」、肺を圧迫し息が途切れるほどの衝撃が女の子を襲いました。
頭も打ってしまったようでとても痛いです。
女の子の意識が闇の底へと沈んでいきます・・・

堕落魔女は、光の中では上手く生きられぬさだめ。
何故?
光の中では狩られてしまうから。傷を追うだけだから。
堕ちた呪いを受け入れたせいで。
闇の中にしか居場所がなくて、闇に慣れなければ生きてはいけない。
その身を、心を、守るためには・・・

執行者―同時に「審判者」は、思いました。
闇を恐れぬその瞳。闇に震えぬその背中。
証のない堕落魔女である印、だと。
確かな手応えを感じたのです。

黒ずくめは全部知っていたよ。
女の子は普通の子供だってことを。
黒ずくめは全部知っていたよ。
女の子が魔女になんてなれないことを。

審判者は、女の子に続いてその闇の中へと進んでいき、家の鍵をしっかりと閉めました。
誰も出ることが出来ないように。

女の子の家に、ある晩漆黒のローブにその身を包む者達がやって来ます。
それは、魔女を裁く「魔女裁判執行者」たちでした。
そんなこと、女の子は知りません。
乱暴に家から腕を引かれ、連れて来られたのは街の外れ、深い森の入り口。
森の番人が住まう小さな家です。
謎の黒使たちに入りなさいと背中を押され、女の子は一人、暗い闇が広がる家の中へと入っていきました。
女の子は度重なる中傷を見聞きしていたせいか、どこか感情を欠落していて、暗闇が怖いなんてこれっぽっちも思いませんでした。
その、闇に動じない背中を見て、黒使たちは心を決めたようです。

堕落魔女は、その世界で忌み嫌われています。
気で何者をも振り向かせ、囁かせる、異端な存在。
堕落魔女がいる、と誰ともなく囁くと、みんな逃げ出す、恐ろしい存在。
・・・ある、一人の女の子がいました。
女の子はいつしか、堕落魔女と似たような扱いを受けてきたせいか、

「あの子は証を授かってはいないものの、堕落魔女なのかもしれない」

と、言われるようになってきました。

それは街中の噂でしかなかったのですが、次第に尾ひれがつき街の外にも広がっていって、

「あの娘は堕落魔女だ!」
「証を受けていないだけで、堕落魔女たりえる素質を持ち生まれたに違いない!!」

と、確信めいたことを言われる頃には、
魔女を裁く者たちの耳に女の子の存在は知られていたのです。
もうここまで来ると、街中の誰もが、女の子を堕落魔女に仕立て上げ、街から追い出したいと考えるようになっていました。