『スパルタカス』
1960年アメリカ映画 184分
監督:スタンリー・キューブリック
脚本:ダルトン・トランボ
出演:カーク・ダグラス ローレンス・オリヴィエ 他
キューブリックのこの映画、ペキンパーの「ゲッタウェイ」、そしてルー・リードがサーフ系ポップ・ミュージックを作曲していたという事実は、仕事で「クソ!」って感じたときに思い起こす三大ほっこりエピソード。
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紀元前一世紀、奴隷のスパルタカス(カーク・ダグラス)は剣闘士養成所主のバタイアタス(ピーター・ユスティノフ)に買われる。動物のように扱われるが、そこで出会った女奴隷バリニア(ジーン・シモンズ)に恋をする。
そんな中、養成所をローマの閥族派クラクサス(ローレンス・オリヴィエ)が訪れ、奴隷たちの真剣試合を要求する。これを機に暴動が起こり、スパルタカスは脱走した奴隷たちによる軍隊を作る。膨張するスパルタカス軍を鎮圧するためローマ正規軍が派遣されるが奴隷たちは善戦、苦闘の挙句、反乱は鎮圧される。
軍を率いたスパルタカスはむごい方法で磔に処せられるが、最後の息の中、逃げのびたバリニアと息子に再会する。
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長尺映画特有の、大きな川の流れのようにゆったりとした分かりやすいストーリー。その分かりやすさを象徴してるのが、3時間超出ずっぱり、カッコよすぎのスパルタカス=カーク・ダグラス。
英雄すぎる、汚れなすぎるこの人、主役が製作総指揮を兼ねるっていう体制のウザさが薫る。そういうのはそういうのであってもいいと思うのだけれど、雇われ監督キューブリックの「俺じゃなくてよくね?」という心の呟きが聞こえすぎて何だかニヤニヤしてしまう。「なんでこんなに普通にすんの?カッコよくすんの?」というキューブリックと「普通にカッコよくて何が悪い」というダグラス。話には聞くが、こりゃ心の底から相容れなかっただろうなぁ。
象徴的なのが、カッコよさ全開、かの有名な「アーイムスパールタカス!」シーン。いやもちろん、すごいいいシーンだとは思うのですよ。感動もするのですよ。でもあの、丘にたたずむ何百という捕虜たちが口々に「私こそがスパルタカスだ!」と言って彼をかばい立ち上がる素晴らしいシーン、あそこで、「俺ちげーし」と言って一人こっそり帰ってるキューブリックも目に浮かんで、そういう意味でも印象的。
私の通ってた高校みたいだ。入学直後の新入生には避けて通れない「応援指導」という儀式があり、毎日放課後体育館に集められ、「精神」を叩き直された。叩き直す役は、裸足で竹刀を持ち、なぜかベルトではなく紐で腰を結んでいる「応援団」という三年生男子数人。声が小さかったり顔がうつむいていたり靴下が生成りっぽかったり(指定は白だったので)するだけで、「ふーーーーざくんなーーーおらーーきさーーーーん(標準語では『ふざけるな、おい、貴様』)」と怒鳴られ、何時間も正座をさせられた。
「あ、高校やめよう」
体育館に正座で佇む15の私は、当然そう思った。親にもそう言ったが、「まあまあ」と言われているうちに一週間経った。
すると不思議なことに、あんな野蛮な「応援団」の人たちは、なぜか一年女子の間で一番の人気者になっていたのであった。「応援指導」の最終日も、サライでも聞こえてきそうな勢いの、何かちょっといい感じの涙で締め。「お前ら、ようついてきてくれた」と…。
その日私は、これから始まる高校生活に何の期待もしないことを決めた。
「アイムスパルタカス!」シーンで思い出すのはそんな出来事。悪い人じゃないと思うよ、結果的には私たちのことすごくよく考えてくれてたんだと思うよ。団体行動の掟を知るのは社会で生きていく上でも必要なことだ。それは重々分かってる。でも帰りたい。私とっても帰りたい。こっそり上履き脱いで裏から出ようとすると、同じく上履き手にしたキューブリック君と目が合った。
暴動で自由を勝ち取った奴隷の剣闘士たち。
しかし堕落し、老剣闘士に闘わせる様を酒を飲みながら見ている。
そこへ割って入るスパルタカス。
スパルタカス「俺は自分に誓った。決闘で死ぬ人間を見るぐらいなら、命を絶つと…。ドラバも同じ誓いを立て、それを守った。俺も守る…(闘わされていた老剣闘士たちに)出ていけ」
出ていく老剣闘士たち。
スパルタカスは、見物していた者たちに語りかける。
スパルタカス「俺たちは何だ。ローマ人になったのか!?何も学んでないのか!?パンよりワインを求めるのか?」
ワインを飲んでいた剣闘士「ワインさえあれば十分!」
一同笑う。
スパルタカス「それじゃ、酒飲みの無法者だ」
ワインを飲んでいた剣闘士「それ以外に何だっていうんだ」
スパルタカス「我々は剣闘士だ。剣闘士の軍だ。想像して見ろ。剣闘士一人で、ローマ兵二人の価値がある」
剣闘士1「ここの見張りと違って、ローマの軍隊は手強いぞ」
スパルタカス「俺たちが本気になれば勝てる」
剣闘士2「だが大軍が必要だ」
スパルタカス「大軍を作るさ。行く先々で奴隷を解放すればいい!凄い大軍になる!」
★★★★★★☆☆☆☆