『シッコ』

2007年アメリカ映画 123分

監督:マイケル・ムーア

脚本:マイケル・ムーア

出演:マイケル・ムーア 他


タイトルがダメだ、ってことは、日本人なら誰でも思うよね…。こういう時こそ、気の利いた邦題付けてあげればよかったのに。


アメリカの医療制度を巡るドキュメンタリー。医療保険に入れない、入っていても保険金を支払ってもらえない人が多数のアメリカ。そのせいで多くの命が奪われ、保険会社や製薬会社が潤っていく。その背後にはニクソン政権時代から続く業界と政治の癒着があったという事実に分け入っていく。


病院代がないから自分で傷を縫ったり、よぼよぼの年寄りなのに薬代のために働かなきゃいけなかったり、入院代が払えない患者を病院が街中に置き去りにして捨てたり、取り上げられるケースの数々は相当にショッキング。


なんでここまでこんななの?と思うけど、これは決して今に始まったことじゃなく、アメリカという国が成立したその時点から脈々とそうだったんだろうと思う。とにかく自由で干渉はしない、その代わり、野垂れ死ぬのもご勝手に。西部劇って基本的にはその精神だし、「怒りの葡萄」で批判的に描かれているのもそのことだし、オバマ政権に反対してる茶会党(ティーパーティー)なる人たちの考え方というのも、そういうことなんだろう。


彼/彼女らのベクトルはあまりに強固で堅牢で、「酷いじゃない」「可哀想じゃない」という感傷レベルの反論(それはつまり、政治的信念を持たない私たち日本人が持ちうる精一杯の反論でもあるのだが)など痛くも痒くもない。バズーカ一発、木端微塵に粉砕してしまう。


したがって、それに揺さぶりをかけようとするならば、そのやり方もやはり相当に強烈なものとならざるを得ない。この映画の中で地獄のように描かれるアメリカ保険未加入者の生活と対照的に描かれるのは、イギリスやカナダ、フランスの夢のように手厚い医療ライフ。挙句、アメリカで最も恵まれた医療環境にあるのがグアンタナモ収容所であるということを聞きつけ、ムーアは病気や怪我に苦しむ未加入者を引き連れ、キューバへと赴く。


パフォーマンス。まさにその言葉がぴったりだと思う。純朴に、そしてそれゆえわざとらしく様々なことに驚くムーアの語りは本当に分かりやすくて饒舌でドラマチックで、「そうだよね、アメリカ間違ってるよね」という結論へと是が非でも連れて行かれてしまう。


でもこれもまた、随分恣意的で強引だなぁと外野の日本にいる私は舌を巻く。敢えてなのか何なのか、猛烈な逆プロパガンダ。最後、キューバで薬貰ってるシーンなんか本当に思う。「ボウリング・フォー・コロンバイン」のチャールトン・ヘストンを追及するシーンのように、結論が一つすぎてもう、どうしろというの、と。


極端と極端の熾烈なせめぎ合い。中身はともかく、その構図が分からな過ぎて、分からないとか態度保留にしてるうちにどっちかに取り込まれそうで、何かむしろそういうのが怖い。そういう映画。


「民衆に教育と医療と自信は与えない方がいい、そうすれば貧者が増え、貧者は希望が無いから投票もしない、したがってコントロールもしやすくなる」という国家の支配法がめちゃめちゃ怖い…と思ったらそれを象徴する労働の映像がティッシュの枚数を数えてるところだった。これに似た場面、すごい見たことありますよ。


   イギリスの元国会議員T・ベンに話を聞くムーア。

ベン「国家の支配には二つの方法がある。恐怖を与えることと、士気を挫くこと。教育と健康と自信を持つ国民は扱いにくい。ある種の人々は思ってるよ。”教育と健康と自信は与えたくない、手に負えなくなる”ってね…(笑う)。世界人口の1%が、80%の富を独占してる。よく皆耐えてると思うが、貧しく、士気を挫かれ、恐怖心があるため、命令を聞いて最善を祈るのが一番安全だと思ってるんだ」


★★★★★★★☆☆☆