『パリ、テキサス』
1984年西ドイツ・フランス映画 147分
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:サム・シェパード
出演:ハリー・ディーン・スタントン ナスターシャ・キンスキー 他
ヴェンダース。「好き!」っていう人の多いアート系監督の作品にはつい身構えてしまう。
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砂漠を歩いている、ボロボロの浮浪者のような男トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)。見つけた店に入り、倒れ込む。そのポケットの中には「ウォルト」と書かれた名刺が入っていた【II】。
連絡を受けてやって来たウォルト(ディーン・ストックウェル)はトラヴィスの弟。4年前に突如失踪して以来の再会。何も喋ろうとしないトラヴィス。ウォルトは、自らが親代わりとなって育てているトラヴィスの息子ハンター(ハンター・カーソン)のいるロサンゼルスまで、彼を連れて帰る【KI/P1】。
トラヴィスと、妻のジェーンも消えてしまったため、ウォルトの家に引き取られていたハンターは、トラヴィスを見ても「覚えていない」と言う。しかし、かつて幸せだった頃の映像を一緒に観たりしているうちに、少しずつ距離が縮まる。そしてトラヴィスとハンターは、ジェーンを探す旅に出る【MP】。
ジェーンは失踪してからも毎月ハンター宛てに送金をしていた。送金場所はヒューストン。銀行で待ち伏せをしていると、それらしき若い女性を見つける。尾ける二人。ジェーンが向かった先は、うらぶれた倉庫街のピープショー。ジェーンはそこでコスプレ嬢として働いていた。
トラヴィスは素性を明かさず客としてマジックミラー越しにジェーンと話す【P2】。ジェーンはそれがトラヴィスだと気付くが、彼はハンターのいるホテルの部屋番号だけを告げ、母子が再会したのを遠くから見届けて、再び去っていく。
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…良い。身構え不要。「この監督の作品だから好きに違いない」という先入観も「評価は高いが騙されませんぞ」という身構えも、本当に強い作品の前ではどうでもよくなってしまうのだな、と改めて思う。
何より景色が良い。もうこの良さは理屈を超越している。まず「テキサス州のパリ」というモチーフの設定からして唸るし、空港近くの崖の上に建つウォルトの家のロケーションも完璧。ウォルトが看板作ってるっていうのもいい。そしてハイウェイ上、叫ぶ狂人のいる歩道をただ歩くトラヴィスのシーンも、なんでこんなにカッコいいのか。映像が語ってるなぁ。映画だなぁ。
そして映像だけでなく、後半、マジックミラー越しのトラヴィスとジェーンの会話シーンは「うわこれは」と心がざわつくくらいの巧みさ。このシーンの成立のさせ方、凄すぎるんじゃないか?脚本として見ただけでも凄いけど、何だか、社会学とか心理学の研究の題材になりうるくらいの感じ。
こういう巧さ、絶対作り手「何となく」で作ってないんだよなぁ。考え抜いてるし、その狙いをきっとクリアに説明できる。そういうところが強い。印象とか感性とかでやってるように見えるけど、ばりばり理性。常々思うが、作り手が磨くべきなのは個性や感性などではなく、断然、理性の方なんじゃなかろうか。
ウォルトの運転する車内で。
トラヴィス「思い出した」
ウォルト「何を」
トラヴィス「土地を買った理由」
ウォルト「……」
トラヴィス「母さんから聞いたんだ。父さんと初めて愛し合った場所だって」
ウォルト「テキサス州のパリが?」
トラヴィス「(頷き)ああ」
ウォルト「母さんが?」
トラヴィス「ああ。…俺の人生は、あそこで始まった。トラヴィスと名付けられた俺が生まれた。俺の出発点なんだ」
ウォルト「パリ、テキサスが?」
トラヴィス「ああ」
ウォルト「命を授かった出発点?」
トラヴィス「ああ」
ウォルト「なるほどね」
トラヴィス「父さんはいつも冗談言ってた」
ウォルト「どんな?」
トラヴィス「母さんを人に紹介して、パリで出会ったと言い、それから間を置いて…”テキサス州のね”って。テキサスと言わなきゃ皆は、フランスのパリだと思うだろ。父さんは、いつも大笑いしてた…」
★★★★★★★★★☆