『ゲッタウェイ』
1972年アメリカ映画 122分
監督:サム・ペキンパー
脚本:ウォルター・ヒル
出演:スティーヴ・マックィーン アリ・マッグロー 他
私はタバコを吸わないが、人と話をするときに、たまに気が向いて一本貰うことがある。つい最近も一本吸ったのだが、喫煙者の方々、これどの程度ご存じだろうか。
KENT NANOTEK。
「だ、ダサい…!」
思っても、口に出して言ってしまうなんて滅多にない。でもこれは言ってしまった。ダサい。間違いなくこれはダサい。あまりのことに衝撃を受けて逆に吸いたくなってしまったくらい、ダサい。
形状を説明すると、細いのである。それがメタリックな名刺入れみたいなデザインの薄い箱(フォントといい色といい角のないフォルムといい、これがまた絶妙)にちまちま入っている。味は普通。吸いごたえも普通。だが灰を落とす時、何気なく手元を見ると…細い。ポッキーと見紛うくらい、細い。そしてそんな煙草を吸っている様を客観的に見るとたぶん凄く…ダサい。
確かに、細いやつは女タバコにあった。けどこのタバコの意義はそれと全然違う。華奢さを演出するのが狙いの女タバコとは違って、NANOTEKは(この名前のダサさもレベルが高すぎる)、「省スペース」「少ない煙」と、あくまで合理性を追求しているらしいのだ。
タバコと合理性…!作る人は知恵を絞って考えたんだと思う。でもその二つが結び付いた時、出来上がったのは極めて純度の高い「無用の産物」だった。吸う意味を全て削ぎ落とされているのになおタバコ。こんな哀れな物が他にありましょうか。
この映画は、そんな…と言うほどまでにひどくはないけど、それに近い印象を受けるペキンパー作品。主演のスティーヴ・マックイーンの意向が全面的に反映された内容となっていて、出来上がりを見たペキンパーが「これは俺の作品じゃない!」と叫んだという逸話が残っている。
主人公のドク(スティーヴ・マックイーン)は服役中だが、妻キャロル(アリ・マッグロー)を思い続けている模範囚。出獄の日を待ち望んでいるが、それが引き延ばされることとなり、失意のドクはキャロルから有力者のベニオン(ベン・ジョンソン)に話をつけてくれないかと頼む。晴れて出獄したドクはベニオンの命を受け、見返りとして銀行強盗をすることになる。
こうやってプロットだけ書くと、ペキンパー風である。でも違う、何かが違う。クインシー・ジョーンズの音楽も違うし、キャロルは普通に美人だし、ドクが住んでる家もきれいすぎる。ドクとキャロルはベニオンから逃れ、強盗で奪った金をもって逃走するのだが、何か最後もふわ~んといい感じに終わる。
「いい感じのどこが悪いんだよ」、確かにその通りである。悪くないからいい感じなのである。でもそういうもんなのか?と思ってしまうのである。意味あるのか?いや確かに、バッキバキのペキンパー作品にだって、意味らしい意味なんか別にないんだけど…。
しかしこの作品は、監督最大のヒットだという。
ままならないものだな、人生って…。そんなところも含めて、私この人好きだ。テンション高く騒いでるかと思ったらいきなりブチ切れて、女を容赦なくボッコボコ殴るような人(この映画でいうと、アル・レッティエリ演じるルディのキャラ)。ニコチン、タールがギッチギチに詰まったタバコのような人。あまり近寄りたくないが(私は非喫煙者なのです)、だけど、その魅力は分かるよ。
置き引き犯から金の入ったカバンを奪い返し、
キャロルの元へ戻ったドク。
キャロル、ドクに抱きつき、
キャロル「無事なのね。どうやって…?」
しかしドク、冷ややかに、
ドク「ムショ直行の方法でさ」
キャロル「大丈夫。テキサス中の役人と寝ても、また出してあげるわ」
ドク「テキサスは広いぞ」
キャロル「私なら大丈夫」
ドク「だろうな」
ドクの冷たい視線に絶句するキャロル。
キャロル「…私が捕まったら、同じことをしてくれるでしょ?」
答えないドク。
★★★★★☆☆☆☆☆