『ガス燈』

1944年アメリカ映画 114分

監督:ジョージ・キューカー

脚本:ジョン・ヴァン・ドルーテン ウォルター・ライシュ ジョン・L・ボルダーストン

出演:シャルル・ボワイエ イングリッド・バーグマン 他


元は戯曲。二度映画化されているようだけど、戦争中にこんなもの作っちゃうんだもんなぁ、アメリカ。時代背景を微塵も感じさせないところ、本当に凄い。


サスペンス。育ての親であり、有名な歌手であった叔母が何者かに殺されたポーラ(イングリッド・バーグマン)。彼女はその悲しみを忘れるためにイタリアへ行き、グレゴリー(シャルル・ボワイエ)というピアノ奏者と恋に落ちる。二人は亡き叔母の家で暮らすことになるのだが、ポーラは、グレゴリーの洗脳と過去のつらい記憶にさいなまれ、次第に精神のバランスを崩していく。


グレゴリーは叔母を殺した犯人であり、最初からポーラを殺して遺品の中から宝石を盗み出すつもりだったという悪人なのだが、ハビエル・バルデム似の色男で魅力的。あ、今あっさりネタばれしてしまいましたけど、この作品、犯人探しを楽しむというより彼の心理的な追い込みに注目した方が面白いので大目に見て下さい。


グレゴリーは優しいのだけれど、「君はすぐ物をなくすから」「君は何でも忘れるから」と言い聞かせ、ポーラ自身がそう思い込んで何もできなくなってしまうほどコントロールしてしまう。これは紛れもなく洗脳で、特別な術とか使ってないだけに怖い。30~40年代のこの時代って、精神分析をテーマにした作品が結構流行ってたような印象があるのだが、その流れに属すものにしてはかなり描き方が洗練されている。リアルだし、どんな夫婦生活にも多少はこういう側面があると思う。


謎解きの重要なヒントになるのがタイトルの「ガス燈」なのだが、電気の代わりにガスで灯りをつけてたっていうところがまず素朴な驚き。「街灯をつけて回る仕事」っていうのが存在してたんだなぁ。そういうとこに驚かれてちゃ小道具としての伏線も何もあったもんじゃないのかもしれないが。


それにしても、「ガス燈」に相当するトリック&タイトルって、今で言うと何だろうか。「光ファイバー」。んー、我ながらかなり近い気もするけど、冴えんなあ。


   毎夜、一人で仕事に出るグレゴリー。

   混乱し、すがりつくポーラ。

ポーラ「やめて。私を一人にしないで…。怖いのよ、毎晩あなたが出かけると」

グレゴリー「怖い?初めて聞いたな」

ポーラ「(取り乱し)怖いのよ。この家が怖いのよ!物音や足音がするし、方々に人がいるみたいで…!」

グレゴリー「……」

ポーラ「自分が怖いのよ…。あなた、お願い…」

   グレゴリーにしがみつくポーラ。

ポーラ「お願いだから、置いていかないで…」

   ポーラを離すグレゴリー。

   なおもすがりつくポーラ。

ポーラ「お願い、私を抱きしめて。あなたの腕で抱きしめて…!」

   冷たく出ていくグレゴリー。

グレゴリー「朝にはよくなっているといいがね」

   ドアを閉めて行ってしまう。


★★★★★★☆☆☆☆