『ハリーとトント』

1975年アメリカ映画 117分

監督:ポール・マザースキー

脚本:ポール・マザースキー ジョシュ・グリーンフェルド

出演:アート・カーニー エレン・バースティン 他


探し物があってセルDVD屋に行くとこの映画がずらっと並んでいた。作品としてはとってもいい作品なのだけど、その光景のあまりのマーケティング無視っぷりに「あぁDVD買う人っていないんだなぁ」としみじみ思う。そして私が探していた物はやはり無かった。


またロードムービー。またエレン・バースティンが出ている。しかも「アリスの恋」とほぼ同時期…。だけど全然印象が違う。役者さんはすごいなぁ。


NYのアパートで独り暮らしをしていた老人ハリー(アート・カーニー)と愛猫トントが、アパートの取り壊しに伴い息子の家や娘の家を転々としつつ旅をするという話。


犬ではなくて猫と旅をするというのが面白い。そしてやはりアメリカだからということなのだろう、出会う人々のレンジが広い。広すぎる。家出してコミューンを目指しているという15歳の女の子や猫の行商をしていたというテンガロンハットの老セールスマン、そして無許可の呪術を行い留置所に入れられているインディアン等々、もう全く想像がつかない感じ。英語は通じるけれど、逆に言うと英語しか通じるものはないという世界。こういうダイナミズムは日本のどこを旅しようともちょっと成立し難い。


「ラリーのミッドライフ☆クライシス」のことをまた思い出す。こういう底知れない分かり合えなさこそが、あの作品のキモなんだよな、やっぱり(奇しくもラリー自身、NYからLAへという移動を経て今に至っているし…)。どうしてああいうものが日本では作れないんだろう、と暇さえあると考えてしまうのだけれど、やはりこの落差って国の成り立ちそのものに関わること。だからこの国ではこの国なりの手法を考えないといけないということなのだろう。そして意外とその分野は手薄だ。


長年の友人の孤独死、痴呆となった初恋の女性、そして何よりトントとの別れ…。避けられないこととはいえ、やはり老いは寂しい。実はシティボーイズを見に行っていたのだが、もはや他に何も望まぬ、ただお元気で長生きを、と…あ、面白くなかったと言ってるわけじゃないですよ。


   アパートでハリー、トントに。

ハリー「信じられんよ、トント。今年は4回も引ったくりに遭った…。アニーが生きてたら悲しむな」

   トイレで砂をかけているトント。

ハリー「あいつはこの界隈を本当に愛していた。誰よりも深くな」

   ハリー、上着を脱ぎながら、

ハリー「活気があった…。だけど今はうるさいだけで活気はない。路面電車が走ってたんだよ、トント。石畳、コンビーフにキャベツの匂い」

   腰掛け、新聞を手に取るハリー。

ハリー「中華料理屋。りんご菓子…。車のエンジン始動はクランクでな、トント。車はレオやフランクリン、ハドソン。車らしい名前だった。最近は動物に乗るみたいだ。ムスタング、ジャガー、クーガー、ピント…馬鹿げてる」

   トントがハリーの元へすり寄ってくる。

ハリー「(なでながら)昔、バートを車に乗せて新聞配達を手伝ってやった。朝早く起こし、小遣い稼ぎをさせた…(欠伸をして)いい街だ。それが今は…衰えた。すべて衰えていく…」

   ハリー、目を閉じ、

ハリー「どこへ住もう。ここには知り合いが多い。知り合い…。それが街だ…」


★★★★★★★☆☆☆