『山椒大夫』

1954年日本映画 124分

監督:溝口健二

脚本:八尋不二 依田義賢

出演:田中絹代 花柳喜章 他


溝口映画を見ていると、「小股の切れあがった」という表現が浮かぶ。


なんでかは分からないし、その正確な意味も知らない。使い方が合ってるのかも分からない。人に「あなた、小股が切れあがってますね」と言われたらたぶんちょっとムッとする。が、黒澤、小津、成瀬といった同時代の巨匠たちと比べても、やはり溝口映画は「小股が切れあがっている」としか言いようがない。褒めているのですよ。


なんだろね。田中絹代の印象かな。


原作は森鴎外。読んだことはない。以前打ち合わせで「安寿と厨子王みたいな要素をさー」みたいな話が出て、「は?あんじゅ?ずしおう?」と、どういう字かも見当がつかないままメモった覚えがある(そしてこの映画を見てその発言がかなりとんちんかんであったということに気付いた)。子供向けのお話として知ってる人も多いみたいなのだが、私は全然なじみがない。


それにしても、完璧すぎるカセだ。父・平正氏(清水将夫)の左遷によって諸国を放浪する身となった母・玉木(田中絹代)と息子の厨子王(花柳喜章。子供時代は津川雅彦!)と娘の安寿(香川京子/榎並啓子)だったが、人さらいにさらわれ売られ、辛い目にあって…という話なのだが、父は筑紫、母は佐渡、そして厨子王と安寿は鬼のような山椒大夫が管理する荘園へ、というロケーションが絶妙すぎる。荘園には奴婢がいっぱいいるのだが、逃げようとすると焼きごてで顔を焼かれるんです。遊女となった母は佐渡から出ようとするのだが、見つかって足の筋を切られるんです。何と言ったらいいんでしょう、この…シズル感?それも違うね…。


何食わぬ顔でダークサイドに落ちる厨子王やそこからの復活、山椒大夫の息子・太郎(河野秋武)との邂逅なんかは「スター・ウォーズ」ばりの壮大なファンタジーのよう。これは確かに、子供の頃聞いてたらインパクト強かっただろう。でも、全体を覆うのは冒険譚としての印象より、しっとりと落ち着いた女性的風情なんだな。そこら辺が何とも「小股が切れあがっているなぁ」と思うんです。


   荘園から抜け出し、都で身を立てようという安寿に、厨子王。

厨子王「(笑って)身を立てる?お前は夢でも見てんのか。元はれっきとした家の子であろうと、今は奴婢の身だ。奴隷の身なんだ!誰が相手にしてくれる!」

   立ち上がる厨子王。

   追いかける安寿。

厨子王「つまるところはお前は遊女屋へ売られる。俺は盗賊の仲間に入る。さもなくば二人して道端に座って、人の恵みを受けるか!」

安寿「兄さんは…今でも盗賊のように恐ろしい人になってる。乞食よりも卑しい心に堕ちている」

   不貞腐れて横になる厨子王。

安寿「年寄りの額に平気で焼きごてを当てたりして、兄さんは何とも思わないの?あんなむごたらしいこと、平気でできるの!?」

   厨子王を問い詰める安寿。

安寿「お父様のお言葉はどうしたんです。懐の観音様に、恥ずかしくないの!?」

   厨子王、形見の観音像を放り投げる。

安寿「兄さん…!(拾って拝み)何ということをするのです」

厨子王「神も仏もあるかい。何の利益もないじゃないか。ここにいる以上は大夫に忠義立てして、一杯の酒にでもありついた方がましだ!」

安寿「あたしの兄さんは、こんな人じゃなかった…」

   泣く安寿。


★★★★★★★☆☆☆