『失われた週末』

1945年アメリカ映画 100分

監督:ビリー・ワイルダー

脚本:チャールズ・ブラケット ビリー・ワイルダー

出演:レイ・ミランド ジェーン・ワイマン 他


1945年と言えば終戦の年で、日本人の私は何となく、今につながる歴史が始まった紀元0年くらいの感覚でいる。が、その年アメリカではこんな映画がアカデミー賞を取っているという驚き。一言で言えば非常に現代的な話なのだが、それはアメリカが進んでいたということなのか、その頃の日本が異常な時期だったということなのか。


徹底的に内省的な物語。アル中の作家・ドン(レイ・ミランド)が孤独に過ごす週末の葛藤。恋人の両親が自分の噂話をしているのを聞いて怖気づいて飲んだり、小説家なのに小説書けなくて飲んだり、んで挙句の果てに死ぬしかないって思いつめたりする弱さは、勝手な思い込みかもしれないけど男の人っぽいなぁと思う。こうあらねばっていう強い意識がないとこうはならないし、自分の中でいいように言い逃れができないから酒で忘れるしかないんだろうし。


私もその気持ちはよく分かるけど、ここまで真っ向から悩んで折れるって無い。もっと自分の中で論理を曲げて開き直れると思う。だから、「やめたいけどやめられない」っていうジャンルの事柄が思いつかない。やめたいならやめてるし、やめられないなら続けてるし…ああ…あるわ。二度寝だ。これはやめたいけどやめられない。しかし、二度寝では映画にならぬ。


構成が巧い。酒場でのフラッシュバックとか、普通こういう回想の入れ方は説明っぽくてダサくなりそうなもんだけど、ここはさすが。抽象的な長台詞もスッと入ってくるし。あと、タバコの小道具。3回か4回、ドンが吸いかけて上下を間違えるという小芝居が入って、気に留めるでもなしに刷り込まれるんだけど、それが最後に大きな意味を持つ。演出の範疇なんだろうけど、こういうの巧いなぁ。


   恋人のヘレン(ジェーン・ワイマン)、兄のヴィック(フィリップ・テリー)に

   アル中を治そうと言われるドン。

ヘレン「まずは飲む原因を調べないと」

ドン「とっくに分かってるよ。原因は苛立ちだ…なりたいものになれないからだ」

ヘレン「なりたいものって?」

ドン「作家だ…(鼻で笑って)滑稽だろ?」

ヘレン「……」

ドン「俺は、大学じゃ天才だった。学内誌には必ず小説を載せた…ヘミングウェイ張りのね」

ヘレン「……」

ドン「19歳が最盛期だったんだ。『リーダーズダイジェスト』にも売れた…天才に大学は無用だった。だから、タイプライターを持ってニューヨークへ出たのさ。第一作は成功とは言えず、第二作も受けなかった…三作目、四作目に取りかかった…」

ヘレン「……」

ドン「その頃だよ。誰かが囁き始めた…バイオリンのような細い声でこう言った…”良くない。自信に欠けてる。そんな時は、一杯やるんだな”…それで飲んだ」

ヘレン「……」

ヴィック「……」

ドン「効果はてきめんさ。小説の全容が、それではっきり見えたのさ。美しく劇的で、完璧な小説だ。だが、書く前に酒が切れ、すべて幻影のように消えた。絶望を一杯目の酒で紛らわせ、気つけに二杯目を飲み、タイプの前で文章を絞りだそうとしていると…また奴が来た」

ヘレン「…奴って?」

ドン「もう一人のドン。酒飲みのドンと作家のドンがいて、酒飲みが言うんだ。”おい作家、タイプを質に入れようぜ。三番街の質屋なら、10ドルは貸してくれる。酒が飲める、でかい気分になれる”…誘惑的だった」


★★★★★★★☆☆☆