[書籍紹介]
 

 

三五館シンシャの「○○日記」シリーズの第25弾(多分)。
今回は葬儀での派遣僧侶業が題材。

筆者の松谷真純さんは、
1960年代の東北地方の生まれ。
大学卒業後、地元企業にサラリーマンとして勤務したが、
リストラに遭う社員に引導を渡す仕事に嫌気がさし、退社。
地元のお寺を手伝っていた縁で、
30代半ばに得度。
跡継ぎのいない地元寺院、東法院(仮名)の住職となるが、
檀家の激減により、
生活が成り立たず、
東京に移って、派遣僧侶として働くことに。
派遣僧侶とは、
葬儀会社から依頼を受け、
通夜や葬儀や法事で読経をする仕事。

というわけで、
派遣僧侶の目から見た「奇妙な業界」の実態を赤裸々につづる。           
東法院(仮名)は250年ほど前、
江戸時代中期に創建された寺院。
しかし、派遣会社からは、
東京所在を要求され、
アパートの一室を借りている。
住所とアパート名を書くと寺院でないことがバレてしまうので、
所番地までとし、
追究された時は、そこを「東法院東京教会の準備室」と説明している。

派遣の仕組みは、
契約した葬儀会社に需要が生ずると、
派遣の連絡を受け、
法衣をつけて車で現地に集合、
導師を務め、葬儀や墓前で読経し、
布施を受け取る。
後日、受け取った布施の中から、
依頼元の派遣会社に手数料を振り込む。
たとえば、当日受け取った布施が12万円だとすると、
後で送られて来た請求書の額は7万1千円。
つまり、4万9千円が「手取り」となる。
この手数料はどんどん値上がりしており、
2010年代はじめまでは3割程度だったが。、
2015年あたりから4割、
2020年ころに5割となった。
最近は75%を取る業者もあり、
たとえば「みんなのお葬式」社(仮名)の手数料は6割。

たまに「お車代」「お食事代」として、
追加で手渡されることがある。
葬儀社にわざわざ申告する義務はないが、
あとでバレると
ルール違反で仕事を回してもらえなくなるので、っ
正直にそれも加えて比率をかけ送金する。

現在、月に2、3件の依頼をこなすが、
その収入は15万程度なので、
生活できず、
月に5~8日程度、
配達アルバトもしている。
滅多にないことだが、
配達先で過去にやった葬儀の施主と出くわすことがある。
その時は知らんふりをする。

派遣組織は、「明朗会計の安心葬儀」といった
テレビCMを流す大手の業者もあり、
規模は様々。
たまに戒名の授与を請け負い、作成する。
戒名とは、仏教において亡くなった人に授けられる名前で、
死後の仏弟子としての新たな名前を意味する。
もともとは出家者が仏の教えに従って生きる決意を示すときに授かるもの。
「戒」とは仏の戒律を守ることを、
「名」とはその誓いを体現する名を指す。
つまり、戒名は、亡くなった人が仏の弟子となり、
悟りの道へと進むことを象徴する宗教的な名前というわけで、
本来、戒名は仏の弟子としての平等な名で上下の差はない。
しかし、事実上、ランクがある。
長い歴史の中で社会的慣習として、
戒名の末尾に付く「位号」による区分が生まれた。
ある宗派の例だと、
下から「信士(男性)・信女(女性)」「居士(男性)・大姉(女性)」
「院号居士(男性)・院号大姉(女性)」「院殿号」があり、
位号が上がるほど格式が高いとされる(宗派により差異あり)。
「信士・信女」は一般的な信者を表す。
これが「居士・大姉」になると徳の高い在家信者を意味し、
さらに「院号」がつくと、寺院への貢献や社会的地位を讃える意味合いが強まる。
「院殿号」は最高位で、昔は大名や豪商などに限って授けられた。

ランクには値段が付く。
「大姉号」は、最低でも30万円以上するし、
お寺によっては50万円を超える。
最近では格安を売りにする葬儀サービス会社なら、
10万円以内で対応してくれる(その半額ほどが業者の手数料)。
戒名授与にあたり、
遺族から聞き取りをする。
戒名作りは仏教的プロファイリングみたいなもので、
「どんな人生を歩んだか」「性格」「職業や地位」
「趣味や特技」「家族との関係」を聞き取り、
宗派ごとの定石に沿いながら
「その人の色合い」を表現する。
実際に使うのは、3文字程度。

たとえば、「みんなのお葬式」は
業界大手の“葬儀ブローカー”。
松谷さんは複数の派遣会社とつき合いがあるが、
「みんなのお葬式」からの紹介案件が仕事の8割を占める。
その社是は「葬儀全般を透明化する」らしい。
しかし、その実態は下請けの葬儀社から4割程度、
僧侶から5割以上の紹介料を取る“ピンハネ業者”だ。

会社だから、
目的は利益追究で、
いろいろと金儲けをもくろむ。
最近では、
過去に出仕いただいた葬家に
回忌法要の案内電話をするように、と言って来た。
一周忌、三回忌、七回忌などの法要の依頼獲得をした寺院には、
葬儀に関する新規の案件を優先的に紹介させてもらうという。
つまり、同社を通じて葬儀関連の仕事を紹介された僧侶に、
過去の葬家(施主)に対して「営業電話」をしろと言っているのだ。
法要依頼が獲得できなければ、
つまり「営業成績」が優れていなければ、
新しい仕事は斡旋しないと脅しているわけである。
また、過去葬儀をご担当いただいたご葬家から、
法事の依頼が弊社にあった件数に応じて、
提携寺院さまにポイント付与し、
そのポイント数により順位をつけさせてもらうという。

松谷さんは、やせても枯れても伝統宗派の僧侶としての誇りから、
どうしてもこの営業命令に従うことができなかった。
その結果、順位は下がり、
依頼件数は減ったという。
なにしろ、毎月、法要獲得ポイントおよび順位が通知されてくるのだ。

僧侶になるには、
「入山」し、24時間修行道場ですごす。
財布と携帯電話は取り上げられ、集団生活。
朝5時半に半鐘でたたき起こされ、
掃除、食事、座学、法要実習、座禅などをこなす。
どれも正座でしなければならず、苦痛。
また、若い教育係から罵詈雑言の人格攻撃を受ける。
松谷さんの時は参加者は総勢29名。
数カ月の修行の中で2名が脱落、1名が病死。
最後は「終了証」をもらって、「出所」する。

寺に帰り、「得度式」を経て、
正式に寺を先代から引き継いだ。
しかし、檀家が十数軒しかなく、
檀家をら抜ける人も続出し、
やむなく、東京に拠点を移して「葬式坊主」になった。
このように、今、
全国には、成り立たない寺が続出しているという。

最初のうちは、依頼も多く、
月収は50万円を下ることなく、
多い時では80万円になることもあった。
収入が減りだしたのは、5年を過ぎたあたり。
「通夜・葬儀」が少しずつ「一日葬」にシフトし、
「戒名不要」の家も増えた。

それと期を同じくして、派遣僧侶の数が増え始めた。
松谷さん同様、
仕事が多い大都市進出を目指す「出稼ぎ僧侶」が増えたためだ。
新規の僧侶派遣会社が雨後のタケノコのように現れ、
業者間でも過当競争状態となった。
新聞、雑誌やテレビの広告で経費も増え、
そのしわ寄せとして、派遣の手数料を上げることとなる。

本来の拠点、東法院に戻るのは月一度。
東京滞在時、寺の管理は近所の檀家の人にお願いしている。
本堂で本尊に手を合わせると背筋が伸びる一方、
寺の現状を見ると、時に落ち込む。
寺の建物は傷みきっている。
改修費の見積もりを見て、不可能だと知る。

組織の上には、全日本仏教会というのがあるが、
「食っていけない寺」への配慮はない。

エピソードの中で、他宗派の葬儀依頼の話が面白かった。
「臨済宗なんですけど、松谷さん、なんとかなりませんか」
臨済宗の僧侶の都合がつかないのだという。
基本的には宗派違いの仕事は受けないのだが、
少しでも収入を増やすために引き受けた。
そのために各宗派の読経を収めたCDを聴いて
臨済宗の読経を身につけ、
ヤフーオークションで安物の中古品の袈裟を1500円で購入し、現場に臨む。
その際、隣の墓所に本物の臨済宗の僧侶、
しかも高位の僧侶が現れ、
袈裟の品質が違うため、
とっさに他の如法衣に着替えて難を逃れるなどのこともあった。
浄土真宗の法要では、
何派か聞かれて、とっさの回答でごまかしたこともある。
でも、これって詐欺じゃないのかね。

金儲けのための出張坊主、
いやなことばかり書いてあるが、
施主から心からの感謝を述べられた時なとの喜びもある。
いずれにせよ、
知らない職業の知らない事情を知る、
このシリーズは勉強になる。
ただ、仏教の教義に関わる心情があまり書かれていないのが不満か。