[書籍紹介]

時代小説の巧者、砂原浩太朗の
珍しい現代小説、というので、手に取った。
題名と発刊日(2024年12月10日)から、
東日本大震災のことを書いた小説、
と思ったら、
なんと、30年前の阪神淡路大震災の経験を描く話だった。
神戸市内の高校から都内の大学に進学し、
東京で働いていた青年・川村圭介は、
1995年1月17日、
早朝の電話に愕然とする。
かけてきたのは高校時代の友人で、
故郷が巨大地震に見舞われたという。
慌ててテレビをつけると、
画面には信じられない光景が映し出されていた。
崩れ落ちたビル、倒壊した高速道路。
被災地となった地元には、
高齢の祖父母を含む家族や友人が住んでいる。
会社の人々も心配してくれて、
休暇を取り、圭介は、故郷・神戸に向かうことを決意した。
鉄道は途中までしか通じておらず、
大量の水や食料を背負って十数キロを歩くことになる。
実家は、全壊を免れたものの、娘のマンションに居候し、
震災の影響で認知症の兆候を見せ始める祖父だった。
しかし、周囲の死者たちに対して、
家族の無事を、周囲への罪悪感にとらわれる日々が始まる。
東京から被災にあった家族を訪れた青年の
7日間を描く。
作者の実体験をもとにしたものらしい。
読んでいて感じたのは、
いつもの砂原浩太朗らしい文章の冴えがない、というものだった。
説明的で、事実の経過に終始する。
情景描写も緻密でないし、
登場人物も平板。
やはり、実際に体験し感じた重みに、
振り回されたのだろうか。
震災から30年を経て発表するのだから、
創作という経過を通しての、
別の描き方があったのではないか。
本作を書いたのは、
震災から15年を目前にした2008~09年のことだったという。
つまり、小説家としてのデビュー前。
(2016年「いのちがけ」で『第2回決戦! 小説大賞』を受賞)
もちろん、加筆されてはいる。
ただ、時代ものとは筆の運びが違う。
砂原の時代ものは、
作者の頭の中に存在する情景のきらめきがあった。
「書かずにはいられなかった」というが、
せっかくの現代ものだが、
ちょっと残念な仕上がり。
時代小説に専念してもらいたい。