[書籍紹介]

荒木村重の有岡城籠城の中で起きた殺人事件を巡る歴史ミステリー。
本能寺の変より4年前の天正6年(1578年)、
荒木村重は突然織田信長に反旗を翻し、
有岡城(今の兵庫県伊丹市あたり)に籠城し、
毛利家の援軍を待つ。
謀叛を止めるよう説得に訪れた織田方の軍使、
黒田官兵衛(小寺孝高)を
捕らえ、土牢に監禁した。(これは史実)
村重が毛利家の援軍を待つ間、
殺人など、数々の変異が起こる。
その事件を村重が推理する、
珍しい戦国時代ミステリー。
4つの章から成り立つ。
第一章 雪夜灯籠
大和田城を守る安部二右衛門が織田側に寝返ったが、
村重は人質である二右衛門の子・自念(じねん)を殺さず、幽閉する。
雪の朝、自念は死体となって発見される。
体には致命傷となった矢傷があったが、
矢は残されていなかった。
庭には雪が積もり、足跡はなかった。
廊下の折れ曲がりの警固はそれぞれ二人組で、
相方の目を盗んで自念に矢を突き刺して殺し、
その矢を隠すことは不可能であった。
いわば密室殺人事件。
村重は真相の解明に乗り出す。
第二章 花影手柄
有岡城では、雑賀衆と高槻衆が、
手柄を挙げられずにいた。
そこへ織田方の大津伝十郎が
有岡城の目と鼻の先の湿地に陣を敷いてきたため、
それぞれに手柄を挙げさせようと夜襲をかける。
夜襲は成功し、雑賀衆も高槻衆も
それぞれ2つずつ敵の大将首を挙げる。
しかし、どれが大津伝十郎の首か分からず、
手柄が判明しないまま、
雑賀衆と高槻衆の対立が深まる。
さらに、若武者の首が凶相に変異し、
周囲は「祟りの兆し」とおののく。
第三章 遠雷念仏
毛利の援軍がないまま籠城の長期化とともに
城内の士気が下がることに悩む村重は、
開城の交渉をするために、
僧侶・無辺(むへん)に明智光秀宛ての密書と
本気度の証しとして、
茶壷の名品「寅申」を持たせて、
遣わすことにした。
ところが、その夜、無辺が何者かに斬殺されてしまう。
「寅申」が持ち去られ、
密書も読まれた形跡があった。
瓦林能登入道に嫌疑がかけられるが、
能登は雷に撃たれて死ぬ。
第四章 落日孤影
落雷に打たれて絶命した無辺殺しの犯人。
村重は死体のそばに鉄砲の玉がめりこんでいるのを見つけた。
狙撃者は織田方に内通している謀叛人と思われる。
そこで、組頭の郡十右衛門に
誰が狙撃者か突き止めるよう命じる。
しかし、十右衛門の調査の結果、
狙撃場所と考えられる場所に、
鉄砲を持ち込んだ者は誰もいないということであった。
どうやって銃を持ち込んだか、
そして謀叛人は誰か。
以上のような4つの事件の解明に行き詰まった村重は、
地下牢に下り、官兵衛に経緯を話す。
その都度、官兵衛は鋭い洞察で事件解決のヒントを村重に与える。
さしずめ、「羊たちの沈黙」(1991)のレクター博士のよう。
また、推理小説の一ジャンルである「安楽椅子探偵」でもある。
こうした事件の起こる中、
籠城以来10か月、
城内では援軍を寄越さない毛利の不実をなじる声が日増しに強くなり、
それにつれて家臣の士気は低下する一方であった。
それはまた、毛利につくと決めた村重を責めることでもあり、
村重は追い詰められていた。
次々起こった怪異の事件も、
宗教がらみで天罰と噂されるようになった。
村重には、下克上で主君を追い詰めた過去があり、
自分もいつか謀叛により
同じ目に遭うのではないかという恐れがあった。
また、人質や官兵衛を殺さなかったのも、
容赦なく人を殺した信長に対する反発もあったとされる。
最後に明らかになったのは、
これまでの4つ事件全ての黒幕の存在。
村重はある意外な人物を特定し、
その動機を聞き、胸を痛める。
黒幕の語る戦場での真実は胸に迫る。
終章 果
毛利の援軍を得るため、
村重は少ない供を連れて有岡城を後にし、
毛利軍の将・桂元将の詰めていた尼崎へ援軍要請に向かった。
しかし、村重が脱出したことが織田方に発覚、
有岡城はあえなく落城し、
村重の妻の千代保をはじめ、武将らの妻子親族の多くが処刑された。
一方、落城した有岡城から救い出された官兵衛は、
羽柴秀吉の勧めに従い有馬温泉で静養。
そこへ、訪れた者が連れて来た人物に
驚きの声を揚げる。
村重は生き延び、茶人として生涯を閉じる。
有岡城は、当時としては珍しい総構え(そうがまえ)の城で、
城下町一帯も含めて外周を堀や石垣、土塁で囲い込んだ城郭構造。
城という閉鎖空間で起こる事件は、
ミステリーでは「クローズド・サークル」と呼ばれる。
戦国時代のミステリーという珍しい着想と、
戦国時代の力関係を描く本作は、
緻密な筆致で荒木村重の人物像を造形し、
直木賞と山田風太郎賞をダブル受賞し、
さらに「このミステリーがすごい! 」国内編第1位、
「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第1位、
「ミステリが読みたい! 」国内篇第1位、
「本格ミステリ・ベスト10」国内ランキング第1位と、
史上初となる4大ミステリランキング制覇を達成。
読み応えのある、見事な小説である。
[映画紹介]

小説「黒牢城」の映画化作品。
あの原作をどう料理したか、興味を持って観た。
監督・脚本は黒沢清。
城主・荒木村重を本木雅弘、

天才軍師・黒田官兵衛を菅田将暉、
村重の妻・千代保を吉高由里子が演ずる。

その他、武将たちに錚々たる俳優が名を連ねる。

結果は、がっかり。
5段階評価の「2」。
日本の映画監督は小説を読みこなせない、
というのが私の持論だが、
本作も見事に映像化を失敗した。

引きの画面ばかりで、俳優の表情が見えない。
長回し、しかも芸のない長回しが多く、
カット割りのモンタージュを生かせず。
謎解きもセリフでやって、
映像という雄弁な手法を放棄。
その結果、4つの謎が平板に並ぶだけで、
空疎な話となった。
つまり、ミステリー映画の手法を習得していない監督の作品なのだ。
今までの黒沢清の作風を知っていれば予想できたはずで、
監督選定における製作陣の人選ミスだと言えよう。

おびただしい固有名詞が出るが、
字幕など一切説明はなし。
当方は原作を読んでいたから理解できるが、
大方の観客は、
誰が誰なのか、
今何が起こっているのか分からない。
まして、カンヌの観客には、
一切理解不能だっただろう。

エンドクレジットで俳優の名前が次々と出るが、
えっ、あの俳優がどこに出ていたのか、
と不思議がるばかりで、
俳優には気の毒だ。

素晴らしい原作を得、
莫大な制作費をかけ、
沢山の俳優を出演させ、
大きな装置を作り、
時間を費やして、
こんな凡作を作った監督の責任は重い。
NHKの大河ドラマ「豊臣兄弟」が、
この有岡城の籠城の下りを放送していたが、
いかなる偶然か。
