[映画紹介]



1950年代、戒厳令下の台湾
田舎で暮らす少女・阿月(アグエー)は、
反政府分子として追われる兄を
サトウキビ畑でかくまっていたが、
兄は警官に追われ、逃走する。


一年後、台北で兄が処刑されたことを知り、
わずかな金と兄の形見の時計を手に
兄の遺体を引き取るために、
阿月は、一人台北へ向かう。
だが、遺体を引き取るには
高額な手数料が必要だった。
途方に暮れていたところを怪しい男に騙され、
遊郭に売り飛ばされそうになった阿月は、
人力車の車夫・趙公道(ザオ・ゴンダオ)に助けられる。

 

中国・広東出身の公道は、
国民党軍の兵士として台湾に渡って以来、
故郷へ帰ることもかなわず、
その日暮らしの生活を送っていた。
白色テロで軍の仲間を失い
人生に行き場を見いだせずにいた公道は、
阿月の思いに心を動かされ、
手を差し伸べることを決意する。
やがて、劇団員として働いていた姉も合流し、
兄が解剖用の死体として大学に引き取られていたことを知り・・・

中国本土で共産党に敗れた国民党が
台湾に渡り、現地人を抑圧した歴史があった。
1949年、戒厳令が施行され、
1987年に解除されるまで、
「白色テロ」と呼ばれる政府による弾圧に
人々が苦しめられた時代。
その頃の町の様子や人々が活写され、
懸命に生きた姿が胸を打つ。
全体に深刻にならず、ユーモラスに描くのが良い。
野外型撮影施設に1950年代の台湾農村建築、
街道、市場などのセットが建設され、
当時の台北・栄町の風景が再現された。

サトウキビ畑に身を潜める兄が
書きためていた雲と霧の物語を阿月に語る。
それが最後になって生きてくる。
二つの水滴は雲にあこがれていた。
一つの水滴は上昇して望みのとおり雲となり、
もう一つの水滴は夢敗れて雲になれず、
霧となって地上を這いはかなく消える。
雲と霧は二度と出会うことはない。
でも、それが景色の一部になる。
白色テロの犠牲者をたとえる話が哀切だ。
どこの国にもある狂った時代の物語。

エンドクレジットのごとく、
登場人物のその後が映し出された後、
40年後、阿月と公道は、偶然、ある場所で再会する。
二人の上を過ぎた歳月が切ない。

監督は快作「1秒先の彼女」のチェン・ユーシュン。
ケイトリン・ファンが阿月、


ウィル・オーが趙公道を演じる。
姉を歌手の9m88(ジョウエムバーバー)。
                                        原題の「大濛」(たいもう)は「濃い霧」「深く立ち込める霧」のこと。
英題は「 A Foggy Tale 」。
「霧のごとく」の題名で劇場公開と同時期に
Netflixで配信。
こちらは原題の「大濛」のまま。ややこしい。

第62回金馬奨では、最優秀作品賞、最優秀脚本賞、
最優秀美術賞、最優秀衣装デザイン賞、観客賞
を受賞し、
最優秀監督賞、最優秀男優賞、最優秀女優賞、
最優秀視覚効果賞、最優秀映画歌曲賞、最優秀編集賞、
最優秀音響効果賞にもノミネートされた。

台湾映画の実力を示す良作
5段階評価の「4.5」

ヒューマントラストシネマ有楽町で上映中。