[書籍紹介]



題名の意味は、
性的マッサージの「女王様」をデリバリーするお店の電話番のこと。

主人公の志川は、
新卒で就職した大手不動産会社を辞め、
クイーンズマッサージの「ファムファタル」(運命の女)の受け付けをしている。
客の男性の好みを聞き、
待機中の「女王様」を選び、送り出す仕事だ。
友達には「そんな職業は辞めたら? 」と眉をひそめられたが、
時給がいいのと、シフトがゆるいので、
アルバイトとしては満足して働いている。

その「女王様」の一人、美織(みおり)に志川は興味を抱く。
美織は50歳なのだ。
だが、需要もあり、
年配客や年上女性をを嗜好する客がついている。
魅力的な女性で、本来電話番と女王様の交流は禁止だが、
志川は美織と食事の約束をする。
しかし、当日にドタキャンされ、
美織とはそのまま音信不通になってしまう。
心配した志川は、彼女の常連のお客さんなどに
こっそり連絡を取り行方を探るが、
履歴書に書かれた住所は嘘で、
しかも、子供がいたり、旦那がいたりと、
様々な嘘がちりばめられていた。
どうも自分の知っている美織さんとは
実物は違うようなのだ。

と、風俗店で働く女性の生態を描く話かと思っていると、
話は意外な方向にねじ曲がっていく
というのも、志川が不動産会社を辞めた理由にあった。
志川は、職場で密かに思いを似せていた星先輩と
付き合う寸前までいったが、
先輩が自分に求めている性的なことが
自分には無理だと気づいたからだった。
先輩を振った形になって、
同僚に悪女扱いをされ、
会社にもいづらくなり、
退社することになってしまった。
そこで、志川がアセクシャルだという側面が見えて来る。

アセクシャル・・・無性愛と訳される。
他者に対する性的な惹かれの欠如、
すなわち性的な行為への関心や欲求が少ないか、
あるいは存在しないこと。


志川は、好きな相手でも、
セックスをすると想像しただけで、
拒絶してしまう体質なのだ。
先輩と一緒に暮らしたい、
家族になりたい、
でも、それをセックスが邪魔をする。

そこから、様々な問題が提起される。
恋愛と性愛は別な感情か
性愛と性欲は別か
しばしば志川が口にする「スーパーセックスワールド」は
世間に横溢しているのに、
志川はそこから否定されてしまう。

しかし、星先輩は、それでもいい、という。
志川が好きだから、一緒に住んで、
でもセックスは望まなければしない、とまで申し出る。
それを受けるかどうか、
志川の苦悩は深まる・・・

という、人類が子孫を継承するために
営々としてきたセックスを否定する人々。
これだけ性産業があふれている世の中なのに。
                                        というホモやレズとはまた違う性的嗜好の話。
ある意味で、現代社会を描く問題作。                       
最後に美織の所在が判明し、
そこで分かった美織の正体は・・・

先の直木賞候補作だが、受賞には至らなかった。
選考委員の評は↓。

京極夏彦  
「視点人物は迷うし学習もするが、成長はしない。
謎は解けるが結論は出ない。」
「それなのに抜群に面白い。
LGBTQ+の捉え方も実に自然で、
また真っ当である。
斯在るべしという小説の約束や決まりごとの枠を引き直そうという
気概のようなものを感じた。」


辻村深月  
「アセクシャルの主人公を主軸に描いてはいるが、
このつらさ、生きにくさの葛藤と混乱は
セクシャリティ以外にもままならなさを感じる読者それぞれの
「地獄」や「天国」とも響き合い、
普遍的なテーマと真摯に向き合った誠実な小説だと感じた。」
「しかし、現実と向き合う姿勢が確かだからこそ、
もう一歩、彼女の辿り着いたラストに
思い切った展開を期待してしまう。
ラストの景色のさらに先に、
この著者ならばもっと隅々まで探せるものがあるのではないか。」


米澤穂信  
「主人公が持つ社会性や想像力の程度が場面ごとに違うようで、
一人の人間を胸の中に描けない。
しかしながら登場人物らがただ話しているだけの場面にも
何かしらのきらめきがあり、
文章には候補作中最も惹かれた。」


三浦しをん  
「展開がややスムーズに進みすぎるところもあるが、
一人称で自身の内面を少しずつ掘り下げていく主人公のありようは、
極めて誠実だと思った。」
「作中で述べられているとおり、
「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいませんでした」
では物語がはじまらないかと思いきや、
実はそうではない、
アセクシャルのひとにも当然ながら、
一人一人に物語があるのだと、
見事に証明したのが本作だと思う。」


浅田次郎  
「小説とは何か文学とは何かという
既成の枠の中には収まらぬ作品である。
よって既成作家の私が批評できる小説ではあるまい。」
「無性愛の人が性にかわる主体性を探しあぐねるという話らしいが、
そのテーマに則って組み立て直せば面白い小説になったと思う。」


角田光代  
「まず分類があって、
そのどれかに私たちがあてはまるわけではないという当たり前のことを
しずかに伝えてくれるような小説だと思った。」
「けれど、風俗店に電話をしていた男性たちが、
その店の見も知らぬ電話番から連絡をもらい、
はたしてこんなふうにかんたんに会ってくれるのか、
会ったとして、こんなふうにいろいろ話してくれるのか、
という疑問が拭いきれなかった。」


林真理子  
「私たち多くの作家は、性愛をテーマに描いてきた。
しかし渡辺さんは、そんなことになんの意味があるのかと、
軽やかにアセクシャルな主人公を登場させた。
これは非常に新鮮であった。」
「どう完結していくのかと楽しみにしていたのであるが、
やっと探しあてたマッサージ嬢との間に
何のケミストリーも起こすことが出来ない。
主人公の人生が、うまく肯定も否定もされなかったのは惜しかった。」


桐野夏生  
「テーマもストーリーも面白いのだが、
風俗店の客に容易に会えることや、
死んだ客の家に忍び込むシーンなど、
主人公の行動や思考に、
いまひとつ納得できない個所がある。
都合のよい展開と思われてしまうのはどうか。」


宮部みゆき  
「小説以外のなにものでもないのに、作りものに見えない。
凄い筆力だと、あらためて感じ入りました。」
「この作品を強く推しながらも、
選考会で様々な意見や解釈を聞いているうちに、
どんどん自信が失くなってきて、
「私は志川のことをわかっていないんじゃないか。
わかったつもりになってるだけじゃないのか」
と萎れてしまったのでした。
ただ、主人公に対してこんなふうに感じる小説には
めったに出会えるものではなく、
やっぱりこの作品を推したいという気持ちに変わりはありません。」