砂原浩太朗による時代ものの短編集。
「小説現代」に2023年から2024年にかけて掲載した
6つの作品を集めたもの。
全て架空の国、神山藩を舞台にしている点で、
藤沢周平の海坂藩を彷彿させる。
「半夏生」
普請方の家に生まれた男の悲哀を描く。
普請方とは、堤や街道の修繕で
足軽たちに混じって働く下級の侍。
それゆえに上士の息子たちに軽んじられる。
いつも決壊する堤の修繕で父が命を落とし、
川の流れを変える提案をした息子も
増水した川に呑まれて落命する。
土にまみれながら真摯に堤の普請に務めた父と弟。
その矜持を誇らしく思う姉の視点で描き、
半夏という花が一本貫く。
「江戸紫」
国元から江戸に向かった武士は、
何故か江戸家老によって留まることを命じられる。
背景に病弱な藩主の後継を巡る陰謀があった。
江戸紫とは、知り合った女性の頭巾の色のこと。
「華の面」
藩お抱えの能役者が、
新藩主の相手を務めることになる。
同い歳の藩主と交流しながら、
外から招かれて来た藩主の
内面の鬱屈を知る。
「白い檻」
政変のあおりで僻地に追いやられた男のもとを
刺客がやって来る。
百姓の助けを借りて応戦する中、
なぜ自分が襲われるかが判明してくる。
「柳しぐれ」
大商人の家に押し込み強盗に入った男が、
別の強盗団に参加の誘いを受ける。
商家への押し込みの計画の片棒を担ぐが、
実は・・・
「雫峠」
足軽から家格の上の家に婿入りした次男坊が
それゆえの居心地の悪さを抱えている中、
別家に嫁いだ血のつながらぬ義妹のことが気にかかる。
どうも夫から折檻を受けているようなのだ。
ある日、夫を刺し殺した妹が頼って来、
逃がすために国境の雫峠まで来ると、
討手としてやってきた
道場の親友が現れ・・・
どの小説も、
読後に余韻に浸る時間が必要だった。
それは短編集を読む時の醍醐味だ。
どれも読みごたえがあり、
続きが読みたくなる物語で、
幾つかは長編になってもおかしくない。
いずれの作品もなんとも言えぬ情感にあふれ、
繊細な描写、洗練された文章で、
読後は清々しい気持ちになる。
何篇かは男女の思いが描かれるが、
節度があって、だからこそ切ない。
武家の生き様は重く息苦しい。
武家のやるせなさ、堅苦しさ、
融通のきかなさなど
身分や家格の違いに縛られながら生きてゆくが、
閉塞感と屈託を抱えながら
懸命に生きた人達の息吹きが聞こえるようだった。
藤沢周平を読んだ時と共通のもので、
やはり藤沢周平の後継者は砂原かな、と思わせる。
藤沢作品のような暖かみが出ればいいのだが。
