[書籍紹介]



 

門井慶喜お得意の江戸時代の経済小説。

天下の台所・大坂堂島には
全国から米が集まり、
日々、膨大な取引がされていた。
取り引きには二つの種類があり、
正米という、米の現物を扱うもの。
(実際は米切手という札を使う)
もう一つが、帳合米といって、
現物の米を扱わず、
米の価格を予想して取り引きするもの。
ある価格で買った者は、
10日後の精算日には売り戻さなければならない。
その時、価格が買った時より上がっていれば、
差額が儲けとなる。
下がっていれば、損失になる。
売った側はその逆で、
10日後には買い戻さなければならず、
その時、価格が売った時より下がっていれば、
その差額が儲けとなり、
上がっていれば、損失になる。
つまり、今で言う先物取引
この方式、世界初だという。
実際の米での取り引き(正米)は、
最低量(10石)が多いため、
莫大な資金が必要だが、
帳合米では、少ない資金で売買が出来る。
そこで、投機筋が群がって市が立つ。
帳合米は禁止されていたが、
実勢の前に見逃されていた。

一方の江戸では、
将軍吉宗、幕閣たちが苦々しい思いを抱いていた。
武士の給料は年貢(米)で支払われ、
それを金に代えるので、
米価が安くなると、
武士の生活が成り立たない。
その重要な米価が
大阪商人に牛耳られている現状が腹立たしい。
そこで、江戸の米業者を大坂に派遣して、
御用会所を設立して届け出制にしたり、
口銭(手数料)納入の義務を課したりするなど、
介入するのだが、
業務の設計にミスがあって敗退、
再度介入するが・・・

と、幕府vs大坂商人の米価を巡る攻防を描く。

主人公は米問屋の番頭の双子の息子・垓太(がいた)と娘のおけい。
対して江戸側は「米将軍」徳川吉宗と南町奉行・大岡越前守忠相。

いつの時代も、
商人のエネルギーが侍を上回る。
全国に視察者を派遣して、
今年の作付けを見て、
先の価格の上下を予測するのも商人らしい。

物語は一つ味付けされていて、
吉宗がまだ将軍の候補にさえ上がらない、
紀州藩の四男の新之助・13歳だった頃、
「米の価格はどうやって決まるのか」と
大坂の米市の現場を視察した際、
案内役をつとめたのが垓太とおけいだった。
およそ30年後、
帳合米取り引きを幕府に認めさせるために垓太は江戸に出かけ、
大岡に直訴するのだが、
その際、30年ぶりに今は将軍吉宗になった新之助と再会する。
再会といっても、まさか将軍と対面するわけではなく、
あるひねりがあるのだが、
それはお読みになって確認してください。

しかし、世界初のデリバティブを生み出す
江戸時代の商人の知恵。
日本人は、すごい。