[映画紹介]

ブラジルの歌手、ネイ・マトグロッソの生涯を綴る
伝記音楽映画。

と言われても、ネイ・マトグロッソを知っている日本人は
ほとんどいないだろう。
私も知らなかった。
なにしろ、ウィキペディアにも項目がない。
しかし、ブラジルというよりは
ラテンアメリカを代表する伝説的な歌手であり、
ラテン地域ではとても有名な人らしい。
『ローリングストーン』誌によって
史上3番目に偉大なラテンアメリカの歌手と評価されている。
                                        ネイの子ども時代から描き、
軍人の父親に厳しくしつけられ、
暴力が飛んでくるような家庭で育った。
父はネイに男らしさを求め、ゲイなどもっての他。
「この家にゲイの息子はいらん!」と怒鳴られる。
10代後半になると家を出て、
自分の生き方を模索するようになる。
しかし、軍隊も経験し、
様々な職を転々とするばかりで、
満足のいく居場所は見つからない。
あるきっかけで音楽に目覚め、
性別規範を吹き飛ばすパフォーマンスで
ミュージシャンとして花開き、
ブラジルのエンターテインメントの階段を上っていく。               高音を活かした女性的な歌い方と、
露出度の高い過激な服装と仕草による
扇情的なステージ・パフォーマンス
唯一無二の注目を集めた。

ネイの音楽活動や恋愛遍歴(主に男性遍歴) の根底に
父との関係が色濃く存在する。
死期が近い父を訪ねた時、
夫婦でコンサートを観に行った時の
父の表情を母が語るのが胸を打つ。
家ではネイのレコードを大音声でかけ、
「わが息子は偉大な芸術家だ」と言ったという。
父を演じたロムロ・ブラガという俳優が味のある演技をする。
母親の演技も物語を支える。

過激なパフォーマンスに検閲が入り、
腰を振る動作にクレームが付けられる。
これは、初期のエルビス・プレスリーも同様の仕打ちを受けた。

当時のエイズ禍も描かれ、
信頼関係にあったマネージャーや
恋人(男性)もエイズで失う。

ラストは、ネイ・マトグロッソ本人の
昨年のコンサートを描写する。
既に80歳を越えたネイの
変わらぬパフォーマンスは鳥肌もの。

歌のシーンにも字幕を付けて欲しかった。
ネイが何を歌い上げているかが分かるのだから。
劇中で使われる歌は、
本人ネイの音源が使われている。

ブラジルでは5月に劇場公開され、大ヒット。
題名は「Homem com H (大文字のH を持つ男)」。


伝統的な男らしさを指す口語表現。
世界ではNetflix が独占配信。
監督はエズミール・フィーリョ
ネイをジェズイータ・バルボサが演じ、
オスカー級の演技を見せる。


この人もバイセクシュアルで、
次第に美しく見えて来るから不思議だ。