7月6日 | 「迷ったらGO!」

「迷ったらGO!」

思い立ったらやっちゃえ!的に行き当たりばったりで行動してしまう、いくつになっても落ち着けないベイスターズファンの親父と、カープ命の母親ジュン、そしてなぜかドラゴンズ狂の息子カイが繰り広げる三つ巴の熱き戦いをお送りします。

 

 

 

 

※この度の西日本豪雨で、亡くなられた方、ご遺族の方、被災された方、すべての方にお悔やみとお見舞いを申し上げます。

 

 

 

 

7月6日(金)朝

 

 

その日は朝から大雨警報が出ていた。

 

 

スマホでJRの運行状況を見ると「一部遅れ」

 

 

この日の予定は、午後から会議、夜は会社の飲み会だった。

 

 

仕事が溜まっていたため、早くいきたいのに電車が遅れるのは困る

 

 

そして、大雨警報が出てるのに飲み会はないだろう、

 

 

そう思い、車で出勤することに決めた。

 

 

広島市内から西条まで特に渋滞もなくいつも通りの時間に到着。

 

 

少しして電車組が着いたが、遅れは出ていなかったようだ。

 

 

ただ、JRはこの時既に午後からの運休をアナウンスしていたため

 

 

午後からの会議はないな、と車でみんなを送っていく段取りを考えていた。

 

 

が、予定通り会議実施。

 

 

 

 

 

7月6日 16:00

 

 

会議が終わると大雨になっていた。

 

 

さすがに飲み会はないだろう、と思った矢先上司が

 

 

飲み会早く初めて早く終わらせよう。

 

 

え?やるの?

 

 

それでも誰か車で送らなきゃならないと思い飲むのを控えていたが、会社からタクシーチケットがでるから、と普通に飲んだ。

 

 

 

 

 

 

7月6日 19:30

 

 

飲み会終了。

 

 

市内組8人がタクシー2台に乗り出発。

 

 

運転手さんが裏道を駆使し、西条を抜けた。

 

 

前が白くかすむくらい雨が激しい。

 

 

国道2号線は大渋滞との情報を得て、熊野経由で帰るこに。

 

 

 

 

 

7月6日 20:00

 

 

熊野に入ったところで渋滞、というより完全に停止。

 

 

少しずつ動くのは、Uターンした車の分だけ前に出るだけ。

 

 

隣を流れる川は濁流で、小さい橋は完全に埋まっている。

 

 

東広島に戻ることも考えかたっぱしにホテルへ電話を入れたがどこも満室。

 

 

 

 

 

7月6日 20:30

 

 

それぞれ家族へ電話を入れると市内も水が溢れているとのこと。

 

 

心配になった2人が「歩いて帰る」とタクシーを降りて歩き始めたが30分くらいして戻ってきた。

 

 

渋滞の先頭は、川の水が溢れていることと、坂の上から水が川のように道路を流れていて登れないと判明。

 

 

前に進むことをあきらめUターンしてきた道を戻る。

 

 

少し進むと数台が止まっており、こっちもUターンしている。

 

 

原因を見に行くと土砂崩れ。

 

 

さっき起きたばかりのようだ。

 

 

タクシーに戻ろうとすると叫び声が

 

 

「おじいちゃんが巻き込まれた!」

 

 

「助けて!」

 

 

反射的に膝まで泥に埋まりながらも声のする方に向かった。

 

 

後から聞くと、これは二次災害を招く危険が高くやってはいけないらしい。

 

 

泥の中を進みながらも、危険なのはわかっていた。

 

 

でも、必死でプチパニック状態だったと思う。

 

 

少しすると、さっき叫んだ人が再び叫んだ。

 

 

「いた!見つかった!」

 

 

どうやら自力で脱出したようだ。

 

 

よかったぁ・・・・。

 

 

泣きそうになった。

 

 

ご家族にお礼を言われタクシーに戻ったが、ドロドロで乗るのをためらっていると運転手さんが

 

 

気にしないで乗ってください!

 

 

 

 

 

7月6日 21:30

 

 

いつの間にか雨は小降りになっていた。

 

 

川の水もさっきより明らかに減っている。

 

 

すると突然、徐々にだが前に進むようになってきた。

 

 

Uターンの車の分だけじゃない。

 

 

ようやく渋滞の先頭が見えるところまで来ると、交通整理している人がいる。

 

 

上からくる来る車と下から上がる車の誘導をしているようだ。

 

 

さっき歩いて見に行った2人からすると、見に来た時川の水は溢れていたようだが、今は溢れていない。

 

 

ただ、坂道の上から流れてくる水の量は変わっていないとのこと。

 

 

交通整理をしていたのは消防団の方だった。

 

 

「絶対止まらないでください!左に流されそうになるので耐えてください!」

 

 

前の車がのどり切ったのを確認し、濁流の中へ突っ込んでいく。

 

 

これはヤバい!

 

 

予想以上の水量で、流されそうになるのがわかる。

 

 

もう少しで登りきるところまできたが、ここが最大の流れになっていてアクセルを緩めたら持っていかれそうになる。

 

 

そして、なんとか激流をクリア。

 

 

車内、歓声と拍手。

 

 

 

 

 

 

7月6日 22:00

 

 

もうすぐ熊野トンネル、というところまできて、再び完全停止。

 

 

ここにきてまた雨脚が強くなってきた。

 

 

運転手さんがネットワークを駆使して通れる道を探すが、トンネル先で土砂崩れ、焼山方面がけ崩れ、熊野峠崩落。

 

 

今来た道は、戻りたくない。

 

 

こうして、完全に孤立してしまった。

 

 

こうなったら、下手に細い道を通るのはかえって危険と判断し、ここで夜を明かすことを決断。

 

 

運がよかったことは、すぐ左手にコンビニがあったこと、

 

 

そして、

 

 

反対車線を救急車と消防車が何台もさっき来た方へ向かって行ったこと。

 

 

 

 

 

 

7月7日 2:00

 

 

プリウスの後部座席に大人3人はキツイ。

 

 

コンビニの軒下で暖かいコーヒーを飲んでいると、色々な人と会話ができて気がまぎれた。

 

 

同じように可部までお客さんを乗せていく途中のタクシー運転手さん。

 

 

明日結婚式にいかなきゃいけないおばちゃんは、トンネルのすぐ向こうが家らしい。

 

 

びしょ濡れでガタガタ震えていた青年は、尾道からバイクで来たようだ。

 

 

同じ境遇で、同じ辛さと不安を持つものが

 

 

コンビニの軒下でそれを共感できる、つかの間の癒し。

 

 

「NHKの72時間」みたいだな。

 

 

 

 

 

7月7日 6:00

 

 

夜が明けた。

 

 

ただ、相変わらず雨脚は強い。

 

 

徐々にコンビニに買い物しに来る人や、トイレを借りに来る人が増えて来た。

 

 

 

 

 

7月7日 8:00

 

 

特にやることもなく、歩いて周囲を見に行く。

 

 

片側2車線の道路は見える限り車で埋まっており、トンネルに入る交差点から左も車の列が果てしなく見える。

 

 

明るくなると雨も上がり、

 

 

地元の人たちも買い物に来たり、犬の散歩に出たり、ランニングしたり、この異様な光景の中に日常が混ざってきた。

 

 

「閉鎖」と書かれた柵の前にいる消防団の人と話すと、やはりどこも抜けられる道はなく、31号線も通行できず、思ったより状況はひどいようだ。

 

 

トンネル出口の土砂を自衛隊がよけているとのことで、開通はいつになるかわからないとのこと。

 

 

 

 

7月7日 10:00

 

 

ズボンの泥をバスターミナルの水道を借りて洗い流し、しまむらで着替えを買おうとしたが、

 

 

「今月は休まず営業」と書かれてる上に「本日休業」の張り紙。

 

 

そらろうや、この緊急事態に服を買いに来るのは俺らくらいだ。

 

 

 

 

 

 

7月7日 10:55

 

 

コンビニの前で会社の人たちと談笑していると、前の方から「動いた!」と情報が伝わってきた。

 

 

弾けるように動き出すコンビニ前。

 

 

タクシーに乗ってしばらくして、ゆっくりと車の列が流れ出した。

 

 

トンネルを超え、土砂で埋め尽くされてたと思われる所を通過すると、一気に加速。

 

 

車が・・・走ってる!

 

 

クララが立った!的に感動。

 

 

スマホで海田大橋も開通していることがわかり、橋の上から街を見ると、海すら泥水になっており、山は至る所に崩れた後が見られる。

 

 

 

 

 

7月7日 13:00

 

 

市内の水は引いていたが、あらゆるところに痕跡は見られた。

 

 

都市高速から近い順番に送り届けてもらった。

 

 

過酷な状況でも冷静に運転してくれたタクシーの運転手さんにお礼と、

 

 

後部座席を泥で汚してしまったお詫びを言い、

 

 

生死を共にした社内に生まれた連帯感を表すような固い握手をそれぞれ交わし、

 

 

ようやく自宅に帰った。

 

 

 

 

 

7月7日 14:00

 

 

風呂に入りテレビを見て

 

 

自分たちがどれだけ幸運だったかを知った・・・。

 

 

 

 

 

 

黙祷