ニースからオリエント急行に乗車する。
これからコートダジュールを走っていくので沿線風景が楽しみである。
乗り込んだ客車は6人掛けのコンパ-トメント式。僕の席は5番で、位置は窓側だが、進行方向を背にしている。向かい合った席にはロシア人の熟年マダムが座っている。小学校時代の同級生のTが同行しており、彼は通路側の席。その合間に3人のスペイン人男性が腰掛けた。
発車してしばらく車窓を眺める。ニース郊外に並び建つアパ-ト群の壁はアート性が高く、カラフルな色彩に塗られている。家々の窓にはフラワーポットが置かれていてとてもお洒落。今、南仏で流行している装飾らしい。
さほど寒い季節でもないのに、マダムは洋服を何枚も重ね着している。相当な寒がりのようだ。窓を少し開けたいのだが、風が吹き込んでくるので、気を遣って開けることができない。
旅の途中でデジカメが壊れてしまい、予備のフィルムカメラで撮影している。残りの枚数は僅かなので、これぞというシーンのみを撮って、セーブしなければならない。
オリエント・エクスプレスの長い編成列車は、大きな川に架かる橋に差し掛かった。海岸線に沿った築堤を大きく弧を描きながら走っていく。マダムは次第に打ち解けてきた。初めは気難しそうな印象だったが、見かけよりも気さくな性格の様子。思いがけず、「私はかつてスペインを旅行した時に、アル・アンダルース急行に乗ったことがありますわ」と語ったので、親近感が湧いてきた。