子供の頃、読んだ絵本の中で、今でも覚えているものがある。タイトルは「くじらの涙」である。
その時、わたしは幼稚園児である。ようやく、ひらがなを覚えた頃である。 おそらくは母親に読み聞かされたのであろう。
話のあらすじはこうだ。 うろ覚えなのだが・・・
ある嵐の翌朝、ある漁師町に鯨の母子が打ち上げられる。嵐は激しくて、母子は陸地の奥深くまで打ち上げられる。
どうあがいても、身動きが取れない。
鯨の子は乳飲み児である。母鯨とは距離がありすぎて、おっぱいが飲めない。渇きと餓えが鯨の子を襲う。
母鯨は懸命に身をよじらせて、鯨の子ににじり寄ろうとする。
砂まみれになりながら・・・
しかし、すべてが徒労なのである。
次第に忍び寄る
「死の影」
鯨の子は次第に衰弱していく。
乾いた皮膚が悲鳴をあげる。
母鯨は、自分の尾びれで我が子に水をかけてやろうと、必死になって砂の上でもがくのである。
傷だらけになりながら・・・
しかし、それは、虚しくも尾びれで砂をかき回すのみである。
鯨の子は苦しくて、ポロポロとポロポロと涙を流すのである。
やがて、やがて、静かに、静かに、鯨の子は息を引き取るのである。
失意の母鯨は、ぐったりとなり、それきり動かなくなる。
母鯨は悲しくて、ポロポロとポロポロと大粒の涙を流すのである。
やがて、母鯨は漁師に発見されて、縄で括られて海に戻される。
しかし、泳ごうとはしない。
母鯨は波打ち際で鯨の子のあとを追うように、息を引き取るのである。
あとから知ったのだが、このお話は、実際にあった出来事を、絵本作家が叙情的に描いたものであるらしい。
この絵本は、今でもあるのだろうか…。