盛岡食いしん爺日記
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とある近所の駐車場。
夜9時過ぎに帰ると、いつも同じ場所に1台の車。
黒い小さな車だ。
男性が犬を抱えている。
暗くてよく分からないが、同年代の様だ。
通るたびワンちゃんは目の前を横切る私を首を回して見る。
ある日のこと。
車に作業着姿の女性が近づく。
ワンちゃんは窓ガラスに両手をあててへばりつく。
男の人はしっかり抱っこ。
女性が助手席に乗り込んだ。
毎日、迎えに来ていたのだ。
微笑ましい小さな幸せを見た。
その翌日、また一つ大きな仕事を終えた。
後から思えば、まだ中途半端な気もする。
いつも様に達成感がない。
ふと、ワンちゃんの姿が浮かんだ。
小さなことでも一つひとつをできる限り頑張っていこう。
そんな気になった。
まずは、自分へのご褒美だ。
財布の中身を確かめて「かわ広」へ向かった。
Desafinado - Cover by Arpi Alto
先日、ランチを食べに来た時、
店の方に話していた。
「今度、仕事が終わったら鰻を食べに来ます。」と。
暖簾を潜り中へ。
カウンターに座る。
お茶が置かれ、
「お仕事が終わったんですね。」
「はい。」
「よかったですね。」
些細な会話で和む心。
すかさず「鰻重の上」と言った。
「はい、承知しました。」
しばらくして一つ席を空けたご夫婦が茶碗蒸しを食べていた。
店の方に声をかけた。
「あの、茶碗蒸しも、いいですか。」
「今だと、ちょっと時間がかかりますけど・・・」
「大丈夫です。」
「鰻が終わってしまうかもしれませんけど。」
「かまいません。」
「それでよろしければ、はい、わかりました。」
待つ間、テイクアウトのお客さんも来た。
嬉しそうに持ち帰って行く。
小上がりからは家族の楽しそうな声。
来た!
蓋を開ければ、あの、かば焼きのいい匂い~
書けなくてもがいた日、途中でやめて温泉に行った日・・・
みんな忘れてしまう。
久し振りのご対面。
肝吸いから。
はやる心を静める様な三つ葉の香り。
山椒をふりながら、食べ始めの心の準備。
大正時代の創業の老舗「かわ広」。
百年以上の歴史があり、継ぎ足しのタレ。
濃厚過ぎず、かといって淡白でもない。
いい具合だ。
これが長く続く味なんだろう。
店頭でかば焼きを売っていたが、
30年ほど前に店内でも食べられる様に建て替えた。
今もテイクアウトの窓口は別にある。
タレだけでご飯がいける。
鰻とご飯って、どうしてこんなにあうのだろう!
気がつけば残った一切れ。
やわらかく、口の中でとろける鰻。
小さな幸せを噛みしめるように味わう。
メロンを食べながら思う。
父の育った家の近くに鰻屋があり、
玄関先に桶が置かれ、何匹もの鰻が丸くなっていた。
子どもの頃は、あまり美味しさが分からなかった。
牛肉ちょっぴりで、豚肉主体のすき焼きの方がご馳走だった。
「お待たせしました」
茶碗蒸しの登場。
中に隠れている海老や銀杏など。
プルンとした食感。
続くさっぱりとしながら出汁のきいた深い味わい。
美味しい。
スプーンで少しも残さずすくった。
デザートみたいで、〆に茶碗蒸しもいいなぁ~
「また、お仕事頑張ってください」
と言われながら店を出た。
いつの間にか暖簾はしまわれていた。
あ~満足した。
暑くも寒くもない北国のいい時期を楽しみながら、
次の企画を考えよう。
しばらく温泉通いもいい。
ちょっと弾んだ心持ちの夜だった。
盛岡市南大通2丁目
「かわ広」