盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意してください。>
時間にゆとりができてくると、
あまり人のいない所で咲く桜を眺めたり、
道を渡る猫を追いかけたり、
奥羽山脈の山並みに隠れる夕日を見に行ったり。
ゆっくり景色を眺めていると、昔を想い出す。
花巻に出かけ、
さほど時間のかからない仕事を終え盛岡に帰る。
寄り道していつもの倍近く時間をかけている。
盛岡の街に入ると、暮れてきた。
ハンバーグを食べようと国道4号線から
盛岡南インターチェンジに向かう道へ曲がった。
数分も走ればハンバーグの「瑠奈」の看板。
André Gagnon - Nocturne
<音楽が流れます、音量に注意>
ゆったりとテーブルが配置されている。
入れ替わり家族連れやカップル、
ひとり本を片手に持つ人と、人それぞれ。
エッグハンバーグにした。
緩やかに盛り上がった玉子の黄身。
フォークをあてると、とろりとハンバーグに流れる。
なんでも、まろやかな味にしてしまう魔法の黄色。
子供の頃、
しょっちゅう朝ごはんに玉子がけご飯。
中学生になると、なににつけても親の言動に顔を歪めた。
1年の夏のある日、
ご飯と小鉢に割れた玉子。
なんだか無性に腹が立って箸をテーブルに叩きつけ、
カバンを持って家を出た。
自転車のペダルに、訳の分からない怒りをぶつけて飛ばした。
友達の顔を見ると、ニコニコして自転車を並べて坂道を漕いだ。
父に家族で温泉に行くと言われると、
顔を伏せ、無言で拒んだ。
学校に行けば持て余したエネルギーを体育の時間にぶつけた。
ソフトボールの時間には思い切りバットを振った。
空を切っても気持ちよかった。
ハンバーグを優しく包み込む黄身は、
デミグラスソースに流れ落ちる。
母にむきになった日、
弁当箱に入っていた玉子焼きは、ほんのり甘かった。
社会人になったばかりの頃、
時々、数人で同僚の家に泊まった。
出勤前の朝ごはんは、玉子かけご飯と魚の缶詰。
美味しくておかわりした。
つなぎを入れない瑠奈のハンバーグは、
肉本来の味を楽しめる。
今は玉子をよく食べる。
もともと好きだったのだろう。
「瑠奈」の創業は昭和54年。
喫茶店から始まり、
今ではハンバーグのほかメニューも豊富なカフェレストラン。
昼も夜も落ち着いて食事ができる場所。
ご飯は、瑠奈のオーナー自身の田んぼの米。
早池峰三元豚のソテーやパスタのほか、
時々、おおすめメニューが出る。
その時は入口に黒板が立つ。
大槌産の鹿肉のハンバーグや龍泉洞黒豚ロースのソテーなど、
パンナコッタのスイーツもセットだったり。
おおすめメニューがあると嬉しくなる。
中学2年の途中、
長い坂道の上にある学校から転校した。
職員室で先生たちに父親と挨拶してクラスの部屋へ行った。
体育の授業で男子と女子が別々だった。
男子生徒に挨拶して拍手で送られた。
「よっち、頑張れよ!また来いよ!」
その頃「よっち」と呼ばれていた。
女の子たちには会えないのかと、がっかり。
父と並んで黙って坂道を下った。
平らな道になったあたり、坂の上から名前を呼ぶ声。
振り向くと、「よっち!元気でね!また会おうね!」
両手を口にかざし、叫んだり手を振る女子が並んでいた。
苦笑いの父。
ちらっと皆を見た。
軽く手を振り、前を向いて歩きだした。
美味しいハンバーグを食べながら、
思い出に耽る夜だった。