盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意してください。>
花巻に行って夜になると、足が向く「ナイトジャー」
店の看板もなく、
地下へ下りる階段をともす灯りがあるだけ。
初めての時、一段下りるごとにわくわくした。
子どもの頃、
たいていの男の子がそうだったように隠れ家に憧れた。
通学の道の途中、
住宅地のはずれ辺りに小さな川が流れ、
広くなったところに十畳ほどの中州があった。
大人の背丈より高く木々が生い茂り、真ん中あたりは見えにくかった。
そこに、隙間を作って隠れ家と呼んだ。
小さな中洲に中学1年生の私たちは飛んで行けた。
数百メートル川を下ると製材所があり、
敷地に色々な大きさの角材が整然と積み上げられていた。
その端に長さが不揃いの木材が山になっていた。
だれが思いついたのかは覚えていない。
学校へ行くとき、数人で一本ずつ持ち、
引きずったり、高く掲げたりして運んだ。
隠れ家に角材をためた。
ひと月近く経った土曜の学校帰り、隠れ家に集合。
長さの違う角材を持ってきた紐や縄で縛る。
みんな黙々と汗を流した。
陽も傾いてきた頃、なんとか筏の形になった。
歓声をあげ、浅い川に漕ぎ出した。
全員が乗ると川底にあたり動かない。
ひとりずつ下りてみる。
最後のひとりが私だったが駄目だった。
仕方なく下りると筏は進んだ。
ところがすぐにバラバラになり流れて行く。
皆で追いかけたが、百メートルほど先は腰のあたりまで深い。
高さ1メートルほどのコンクリートの堰が水をためていた。
見ていると、バラバラになり堰に溜まる。
すると、近所の大人達が騒ぎ始めた。
咄嗟に私たちは引き返し、遠回りして帰った。
S君が言った。
「いいか、みんな誰にも言うなよ」
みんな頷いてそれぞれの家に帰った。
きっとあの後、大人たちが片付けたのだろう。
何日かして誰かの話で、
製材所に向かって流れてきた謎の百本近い角材は、
元の場所に戻ったことを知った。
今なら事件になっただろう。
あの頃、秘密を守る絆は強かった。
Speak Low · Peggy Lee
<音楽が流れます、音量に注意>
一緒に来た高校の同級生とカウンターに並び、
昔のことを思い出していた。
その夜、オーナーは和服姿。
「珍しいですね、初めて見ました」と言うと、
実は和服の方が多いらしい。
考えれば、まだ私は4回目。
隅まで素敵なオーナーの創り上げた空間。
私はその夜もノンアルのスパークリングワイン。
店の中を見させてもらった。
灯りが漏れる壁のデザインもいい。
近づくと、その奥にも竹林の絵。
ナイトジャーとは夜鷹の意味。
宮沢賢治の童話を思い出す。
よく見ると、枝に止まってあちこちにいる。
オーナーの創る素敵な空間にいると、
どこの街にいるのかを忘れる。
ウイスキーを一杯飲んだ友達は、仕上げに珈琲。
一見して倉庫のような建物の地下にある別世界。
まだひとりでは来たことのない「夜の隠れ家NightJar」