盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意してください>
盛岡での暮らしが長いが、思春期を花巻で過ごした。
高校時代の同級生がたくさんいて懐かしい街だ。
あの頃、後ろ姿を見つけると心ときめく人がいた。
幸運にも接点があり、2人で書店に行ったり、秋祭りを見たり。
でも向こうは普通の友達感覚。
ある夏の日、
自転車を押しながら歩いていた。
「ボートに乗ったら気持ちいいだろうなあ~」
と隣で言われても「うん」とだけ答えて黙り込む。
やたらハンドルをぎっちり握っていた。
「行こうか」という言葉は、喉に詰まったまま、その子の家に着いてしまった。
自転車に乗るやいなや、思い切りペダルを踏んだ想い出。
I Am a Rock · Simon & Garfunkel
一度だけレコードを貸すと言われた事がある。
借りていた夏休み、毎日、何度も飽きずに聴いていた。
それがSimon & Garfunkel。
一番聞いたのがこの曲、I Am a Rock。
その後、十年に一度ぐらいのペースで同級会。
年を重ねた今では淡い想い出。
還暦の集まりで、レコードの事を話したら、
「あれ、そうだったけ?」
その花巻で先日、友人と会った。
彼は、ずいぶん前にリストラで家族とも離れ故郷に帰ってきた。
ここ7、8年桃や果実を育てている。
今は勤めも辞め、ゴルフと少しの畑と果樹。
待合わせは「茶房あれい」。
ここは同級生と会うにはうってつけの喫茶店。
彼は、あれいの駐車場とは別の場所に車を停め歩いてきた。
店の前でばったり。
このアプローチがいい。
初めての時、店の中の見当がつかなかった。
天井は高く天窓があり明るく驚いたものだ。
あちこちに季節の花々。
その日は鬼灯。
彼は帽子を傍らに置き、
暑い暑いとアイスコーヒーを飲みながら、
「確か、ここは二度目だなぁ~」と頭を撫でた。
淋し気に残るよりいいと、きっぱり坊主にしたという。
若い頃はやたら人目を気にする男だと思っていた。
山菜取りで出くわす熊のほかは怖いもの無し。
夜も早く床につき、夜明けには起きる。
朝、寝床で本を読むのが楽しみで、
週に2度も図書館に通うそうだ。
久し振りに会った彼は饒舌だった。
私が注文したあれいの名物「小倉ホットケーキ」。
彼は声を上げて驚いた。
目の前で私はパクパク食べた。
全て手作りであれいのママの自慢のホットケーキ。
迫力の厚みと、たっぷりの甘すぎない餡子。
表面が狐色、まだ熱くバターが踊る。
これが実に美味しい。
少し薦めたが、時間はもう4時近く。
彼の晩酌の時間で、我慢すると言った。
ペロリと平らげると半ば呆れ顔。
桃の木はさほど大きくなく3本。
ところが今年は1本は全滅、残りの2本も良くなかったそうだ。
一番小さな木に少し実った。
異常な気象で病気や桃の木自体に活力が無かったという。
何度も失敗し、3年ほど前は見事な実がなった。
小さな段ボール箱で届けてもらい、彼を知る同級生にも配った。
みんな美味しくて驚いていた。
30分ほどして、彼は時計を見た。
一緒に暮らすお母さんの物忘れがひどくなり始め、
特に夕飯時、あまり家を空けられない様だ。
別れ際、
「2,3日おいたら熟すと思うよ」。
「わかった、ありがとう来年は皆待ってるよ!」
とプレッシャーをかけた。
家に帰って桃を取り出した。
確かに少し染みの様な部分もある。
数日後に食べてみた。
桃の香りと歯ごたえがいい、私は固めの桃が好きだ。
噛めば甘い果汁。
美味しかったと彼に電話しよう。
茶房あれい
花巻市上町4-3