盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意>
淋しかった。
今日、珍萬にランチに行こうと思った。
何を食べようか、と思いながら弾む心。
角を曲がると、少し先に見えるはずの看板がない。
ドアに貼り紙が見え、歩み寄る。
3月25日に閉店。
マスターの顔が浮かんだ。
<いつか行った珍萬の写真、新緑の頃だ。>
<音楽が出ます、音量に注意>
停めていた駐車場に戻る。
軽いため息に続いて珍萬で食べた料理が蘇る。
別の場所にあった時、父の退職の慰労会をした。
珍萬でと言ったのは父だった。
その頃の写真はないが、
色々な中華料理を前に皆の笑顔が浮かぶ。
若い頃は、紹興酒も飲んだ。
ほろ酔いで次から次へと食べた。
一番食べたのは酢豚。
甘酢の餡をすくって食べた。
噛むとじゅわぁ~と広がる肉汁。
椎茸や玉ねぎ、美味しかった。
珍萬の餃子も好きだった。
5個なので、2人で行くと「6個にしますか?」と聞かれた。
魅惑の狐色。
レバーの油炒めも最高だった。
しっかりとした歯ごたえ。
生姜がきいて臭みなんてなく、
レバーが苦手な人でもどんどん食べた。
食べていると、よくご飯が欲しくなった。
ついてくるスープがいい香りだった。
蛍透かしの食器も素敵だった。
母が気に入っていた皿が2枚とスープを入れる器があった。
ここに来ると、時々思い出したものだ。
特別な時に出てきた皿は今も残っているだろうか。
イカと木耳の炒めものもよく食べた。
柔らかいイカと木耳の食感を思い出す。
カリカリの皮に包まれた餡。
揚げたてのいい匂いは忘れられない。
年中やっている冷風麺。
何度か真冬も食べた。
酢がきいて後味抜群のスープを空になるまでレンゲですくった。
豪華な具は、鶏、錦糸卵、くらげ、キュウリ、海老に蟹。
そして金華ハムと間違ったチャーシュー。
スパイシーな味噌ラーメンも好物だった。
シャキシャキのもやしとコクのあるスープ。
一気に食べたものだ。
ごま団子。
「お年玉です」とテーブルに置いた時のマスターの笑顔。
ほかにも色々な料理を食べた。
以前は、おこげやおまかせのコースなども。
ここ数年は疲れて気力が失せている時、よく食べに来た。
帰りの足どりは軽かった。
いつも会計しながらマスターと話し、
小さなお菓子をもらって帰った。
ポケットにしまい込み、背筋が伸びて夜道を歩いた。
脚や肩、手首が腫れて歩くのが大変だった頃、
よく、NHKの再放送で見ていた「カーネーション」。
あの頃、脚を引きずる様にして食べに来た。
創業70年、一度、珍萬の灯は消えた。
冬が過ぎ、花が咲く様に。
きっと、どこかで、
また珍萬だけの、
あの味に出逢えると信じている。