盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意>
<夕暮れ時のクラムボン・撮影 松本伸>
Candle In The Wind (Remastered 2014) · Elton John
今年になって盛岡の街は騒々しい。
駐車場だった所に建築が始まるという看板。
あちこちで立ち上がる鉄骨。
事務所の近くでも古い民家が無くなり更地になった。
古くは川徳デパート、ナカサンデパートを経てナナック。
取り壊しが始まった。
川徳デパートは移転する前、ここから始まった。
屋上には小さな遊園地もあった。
多くの人の想い出も瓦礫に埋まっていく。
街は呼吸するように生きている、と思っている。
建物が消え、新しく建つのは仕方がない。
ただ、剥き出しの赤い鉄骨、コンクリートの壁。
しばらく道路向かいから見ていた。
歩き始めた足取りが重い。
珈琲豆を買いに紺屋町へ向かった。
この辺りは、古い町並みが残る。
近くの造り酒屋は隣町に移転したが、
残った建物は今のところ何も変わらない。
駐車場車を停め、この辺りを歩いていると心が落ち着く。
ゆっくりだが、足取りは軽い。
ドアを開けるとオーナーが言った。
「あら~お久し振りです~」
先代のオーナーが逝ってしまい娘さんが後を継いだ。
店の中を少し変えたそうだ。
カウンターは、豆を買いに来たお客さんの待つ場所に。
テーブルも2人がけになっていた。
マンデリンを挽いてもらうことにしてカウンターに座った。
「もう板についてますね」と言うと、
「父の背中を追いかけてますが、まだまだです」
先代は、よく夢を見たと言う。
焙煎が上手くいかなかったり、
焙煎機のトラブルだったり、
珈琲のことばかりだったらしい。
そして、お父さんは「まだまだ」と繰り返し語っていたそうだ。
以前は、よく来ては珈琲とプリンを食べたもの。
先代は私が本を出す頃、猫の本を発刊した。
間もなく逝ってしまったが、しっかり娘さんが店を守っている。
クラムボンでは深煎りが中心。
常連や初めての人も珈琲を飲みに来たり、豆を求めて来たり、
人が途絶えない。
今日はプリンも残り少ない。
盛岡冷麺で人気のぴょんぴょん舎でもクラムボンの珈琲を出す。
マンデリン100グラムが出来上がった。
待つのも苦にならない。
娘さんの話を聞いて、
改めて父の焙煎を思い返している気がした。
少なくなった椅子に座る人へ丁寧な一杯を届けたい。
そんな想いが溢れている顔に見えた。
会計しながらスタンプカードを出した。
あら?と言う顔をした。
いつも持って来なくて苦笑いしてごまかしてばかり。
「もう少しですね」とスタンプを押してくれた。
クラムボンを後にして仕事を一つ片づけた。
車に戻ると珈琲の香りが満ちていた。
ふと、思った。
壊れた後、この街に合う建物が出来ると嬉しいのだが・・・
<ねこ町のクラムボン>
<盛岡食いしん爺のもりおかじまん>