盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意>
ふいに春は近くにやって来る。
しかし北国の春は行ったり来たり。
昨日、郵便受けに不在だった通知。
急いで郵便局に向かった。
持ち帰ると、息をひそめて静かに
津軽は五所川原の御菓子処「葉山」の包を開けた。
メールも届いていた。
「突然、またなんとなく送りたくなりました」
Love Theme from Romeo and Juliet - Joslin - Henri Mancini, Nino Rota
<音楽が流れます、音量に注意>
いつもの金色の閉じ紐。
品のよい箱の中には春が詰まっていた。
一枚の紙に手書きで、
「桜餅、鶯餅を先に食べて下さい、かたくなりますので」
と添えられていた。
桜餅を取り出した。
春だ!
桜の葉と花の風味に包まれ、外はやわらかい。
中の餡と一つになって口の中に広がる。
「夢見月」
メモが入っていて「雪平製」と記されていた。
雪平とは、白玉粉、砂糖、白飴、卵白で作る餅だそうだ。
丁寧に書いてあった。
白餡と皮が一体となり、ほのかに胡麻の風味も。
「鶯餅」
薄い求肥に包まれ、たっぷりのこし餡。
シンプルながら奥深い味。
「豆羽二重」
口の中で小豆の食感。
餡には粒を残した小豆もあり、これまた楽しい。
たまらない美味しさ。
「菜の花」
続いて「菜の花」。
きんとんそぼろ製と記されていた。
春を味わう。
「ひとひら」
ねりきりの菓子。
包まれた黄味餡は、丁度いい甘さ。
口の中で溶けていく感じだ。
「桜(はな)だより」
黄味時雨製でこし餡。
そして、桜の花のあしらえ。
爽やかでほどよい甘さが口の中に広がる。
早春の味だと思った。
「春の響(はるのおと)」
小豆餡とねりきりが一体となっていた。
食感も後味もいい。
葉山の和菓子は喉をとおった後に残るほのかな甘味。
しばらく、お茶を飲まずに後味を楽しむ。
一つひとつの名前を筆で丁寧に書き記し、説明してあった。
その心遣いも流石。
五所川原の夏の風物詩、立佞武多を見に行く度に寄っている。
夏の和菓子しか知らなかったので秋、冬、春の菓子を送ってくれた。
これで、四季を味わった。
私を和菓子好きにさせてくれた「葉山」の松橋さん。
届いたとの返事にメールが来た。
「やはり、シンプルな仕上げにしています」
シンプルであることが一番難しいのだろう。
一度だけ厨房を見せてもらったことがある。
長い間使ってきた器機や道具はピカピカだった。
春を味わった夜、少し散歩した。
3月に入り、北国盛岡の夜風も真冬のように頬が痛くならない。
まだ雪は残るが日毎に勢いを無くし消えていく。
夕方になると渡り鳥が群れをなし空を飛ぶ。
その夜、白鳥の声がした。
次々とV字の編隊が北へ飛ぶ。
まだ練習だろうか。
盛岡は、街中の川でも白鳥が見られる。
翌日の夕方、隣町の雫石の鶯宿温泉に行った。
その帰り雫石園地の辺りの田圃で白鳥を見かけた。
そろそろ、北へ渡る準備だろう。
津軽でひと休みしたら、五所川原の葉山の上を飛んで欲しい。
「美味しかった」と鳴いてくれたら嬉しいのに。
なんて少し無邪気になった。
〒037-0054 青森県五所川原市上平井町98