Love Theme from Romeo and Juliet - Joslin - Henri Mancini, Nino Rota
<音楽が流れます、音量に注意>
一日が早い、一年はもっと。
「時の流れ」とは何だろう。
あんなに長かった高校時代の授業時間。
3年間、ひと駅だけだが東北本線で通学。
ある日、改札口に駆け込んで、列車の入り口に並んだ。
出発のベル。
乗ると後ろから押され、デッキの辺りは鮨詰め。
再び押されて車内に向かう通路に。
体勢が逆になり、押す流れに振り向く形になった。
するとカバンが向き合った人と絡まってしまった。
列車は動きし出した。
カバンを持つ手が手が交差。
右手が相手のお腹の辺りにあたった。
その人は一瞬、こちらを見て俯いた。
体の全てが脈打つ心臓になり、額から汗が噴き出る。
向き合っているのは同級生。
後ろ姿を見つけると急ぎ足で追いかけた。
おはようと言おうと思うが、声をかけれずに過ぎた一年。
カバンが絡み合い、時々、その子の頭が左の肩に触れる。
カバンを自分の身体に寄せようとすれば、その子の手がこっちの腰にあたる。
駅に着くと、体中の力が抜けそうになった。
ぞろぞろと列車から下りて行く。
自由になった途端、淋しくなった。
たった数分のことだった。
年を重ねて同級会で会うと冗談を言い、
肩を叩かれても、あの列車の頃に戻るわけでもない。
それに彼女は、もう忘れているかもしれない。
時が流れ、自分にだけ残る数分の出来事。
盛岡での暮らしも長くなった。
気がつけば駅の辺りには高層マンションが立ち並ぶ。
暮らす人々が街の光景を造り出し、街は生きている。
盛岡の北と南に寺院群があり、北の方を寺町通りと呼ぶ。
時折車で通ることはあるが、歩くのは久し振り。
お節料理にも飽きてきたら、何故か「喜六そば」が浮かんだ。
喜六そばは、明治44年創業の製麺の「赤喜商店」が昼時だけ営む店。
もう十数年になるらしい。
ここのメニューは冷たい蕎麦と温かい蕎麦だけ。
窓から入り込む陽射しがあたる奥の小上がりに座った
温かい蕎麦にした。
「あずきもち」と「あじにしん」と漬物がついてくる。
細麺で風味豊かな蕎麦。
優しく懐かしい味。
湯気にのっていい香りが顔まで届く。
つゆもあっさり。
控えめな甘さに小さな餅で食べやすい。
身欠きにしんを独自のたれで煮たあじにしんは、くせもなく、さっぱりとした味。
漬物も箸休めにいい感じ。
早々に完食。
蕎麦湯を飲みながら辺りを見てみた。
ほかのテーブルは温かい蕎麦と冷たいのが半々ぐらい。
初めて来た時は夏で冷たい蕎麦を食べた。
冷たい蕎麦には、黒豆とあじにしんなどのほか、大根のしぼり汁がつく。
今日で、まだ二度目なのに、
久し振りに帰った故郷の蕎麦屋で食べている気がした。
「あれ、今日は何日だったかな?」
喜六そば
〒020-0016 岩手県盛岡市名須川町11−28