Speak Low · Peggy Lee
<音楽が流れます、音量に注意>
花巻で小さな忘年会。
3人は火鍋で温まり、歩いて数分のバーへ。
ここも花巻で暮らす2人は初めてだった。
結局、その日は盛岡暮らしの私が案内。
あまり人に教えたくない場所。
入り口には店の名前もなく、灯りがともるだけ。
灯りの前に立つと階段。
でも、扉も見えない。
断りもなく誰かの素敵な家にでも入って行く感じ。
階段を下りてドア。
後をついて来る2人の驚く顔が浮かぶ。
扉の奥に現れる別世界。
時間は7時ちよっと前。
7時が始まりだったが、快く迎えてくれるオーナー。
カウンターに座る。
まだ客は私たちだけ。
「あの、中を見てもいいですか?」
「どうぞ、灯りを点けますね」
夜の隠れ家NightJar。
たしか夜鷹。
なるほど素敵な名前だ。
「花巻にこんなバーがあったとは」
腕を組む2人。
明るさも丁度いい。
誰かと来れば、じっくり話し込みたくなる。
ひとりカウンターの端も落ちつく。
ひと巡りしてカウンターに並んだ。
始めに小さなカップでスープ。
私は、ノンアルでスパークリングワインのロゼ。
先日、この店に初めて来た時、
オーナーに聞くとノンアルのスパークリングワインがあるという。
口にして「酔いそうです」と言うと、「皆さん、そうおっしゃいます」と微笑む。
今宵も呑みの気分。
2人はウイスキーのロック。
杯を重ねて饒舌になるF君。
歩いて十分もすれば彼は家に着く。
「知らなかった~」
「どうして始めたの?」
「花巻に、と言ってはなんだが、こんなお洒落な空間があるとは、いつから?」
「出身は?」
と立て続けに問いかける。
お陰で、NightJarの歴史と素敵なオーナーのことを少しだけ知った。
自分がゆっくり話せる場所が欲しかったそうだ。
8時近くになってカウンターも賑やかに。
私たちは学生時代に戻り、東京にいる気分。
話題は時間を遡る。
近頃の歌やテレビ番組は、みんな同じ匂いがする。
今や女性グループの区別がつかない。
昔は個性の時代だったという話になった。
忌野清志郎、山下達郎、玉置浩二、佐野元春と名前が続く。
オフコース、中島みゆき、ユーミン、竹内まりあたりまではいいが、
顔が浮かんでも名前がで出てこない。
あまりテレビも見なくなり、せいぜい衛星放送。
「あれあれ、あの人、う~んなんだっけ・・・」
我々が時代に遅れてしまったのだろうか。
2人はほろ酔いをこえていた。
9時過ぎになって誰が言うとでもなく、そろそろ解散の時間。
今宵の忘年会は、いつもと違って新鮮だった。
店を後にしてF君は家に向かう。
H君は代行へ電話。
街の灯りを頼りに、それぞれの現実に戻っていった。
私は車が暖まるのを待っていた。
飲みかけの紙コップに入っていた珈琲は冷たい。
しだいに窓に暖気が出てきた。
宮沢賢治の夜鷹の星を思い出しながらハンドルを握った。
翌日、朝早く目が覚めた。
珍しくご飯にしようと思った。
先日、雫石の産直で買ってきたわさびがある。
久し振りに「わさび丼」。
しらすと大葉もある。
海苔とごまも散らして完成。
心地良い刺激を口にしながら昨夜のことを思う。
久し振りに東京で会ったようなひと時だった。
ふと窓を見ると、カーテン越しに差し込む陽射し。
冬の柔らかい朝の斜めの光は、とても綺麗だった。