千と千尋の神隠し : 六番目の駅 久石譲
<音楽が流れます、音量に注意>
あれは中学3年のこと。
明日から冬休みと言う日だったと思う。
先生にプリントを配るように言われた。
教室の片隅に立ち配ろうとすると、
みんな我先にと集まって来た。
どんどん手を伸ばしてくる。
ぐるりと囲まれた。
手を高く上げ配っていた。
その時、背中に手のひらを感じた。
皆に「触るな!」と言ってプリントを持つ手を高く上げた。
すると背中の微かな温もりが消えた。
振り向くとSさんが横を向いて人を掻き分け遠ざかって行った。
プリントから手が離れ残りのプリントが宙を舞った。
それぞれに拾って教室から出て行った。
床には数枚のプリントが散らばっていた。
拾い集めた残りを教壇に置いた。
1枚は自分のカバンにしまい込んだ。
時間が経つにつれ背中から離れた手のひらと、
Sさんの顔が浮かんだ。
驚いた顔だった。
学校の門まで来て、事のしだいが飲み込めた。
「違う!手じゃなくてプリントに触るなと言ったんだ・・・」
あれから何度の冬が過ぎたことだろう。
今まで生きてきて、言葉の誤解が幾つもあった。
冬が近づくたびに思い出す。
忙しい時期に行き違いは少なくて、のんびりしている時の方が危うい気がする。
誤解を生んだ後、
「自分は、酷く駄目な人間だと思ったりするんだよなあ~」
おや、時間だ。
そろそろ7時半。
今日は仕事が立て込んでいてテイクアウトを予約した。
明治に創業した老舗魚屋の「鈴徳」。
頼んでおいた海鮮丼を受け取り家に帰った。
ご飯が隠れていた。
ちらし寿司とか海鮮丼を食べる時、
わさびを小皿に取り出し醤油を注ぐ。
そこから一瞬、迷う。
かけてしまおうか、ネタを浸して食べようか?
今宵は一つひとつ取り出し、
再びどんぶりに戻しご飯と一緒にすくった。
敷き詰められた海の幸。
どれも美味しい。
鈴徳さんの海鮮丼を食べ終えて少し元気になった。
こんな時、「なんて自分は単純に出来ているのだろう」と思う。
今夜も風は冷たいが、少しだけ窓を開けて仕事をしよう。
昨晩、白鳥の声を聞いたのだ。