パリの空の下/レイモン・ルフェーヴル
<音楽が流れます、音量に注意>
8月は雨の日が多かった。
ある日、小雨の中を雫石のありね山荘へ。
温泉でゆっくりしたかった。
雨足が強くなり、アスファルトが煙る。
車の屋根から鈍い音。
葉に集まった水滴が落ちてくる。
雨に輝く緑。
今年も駐車場の辺りに咲いていた。
百合だけがスポットライトを浴びている様だ。
雨のせいか、時間が早いからか、
広々とした風呂は空いていた。
四肢を伸ばす。
「おや?」
大きな窓ガラスに長い足の蜂。
登っては落ちる。
ちょっと飛んではへばりつく。
また登る。
水滴だらけのガラス。
とまるのも至難の業。
くすくすとひとり笑い。
目を閉じ湯船に浸かる。
しばらくして額から汗がひと筋、頬を伝う。
まだ蜂は繰り返していた。
生きるため外に飛び出したいのだ。
開く窓ではなく手伝えない。
湯船から立ち上がり背を向けた。
ありね山荘から盛岡へ。
運転しながら時々必死の姿が浮かぶ。
家に帰ると海老の様に身体を丸め、
ごろごろしていた。
すると来客。
お土産は岩泉町「志たあめや」のたぬきケーキ。
この店は江戸時代からの老舗のお菓子屋。
下宿と言う場所で始めたので「下飴屋」。
昔は、大麦の麦芽から水飴を作っていたらしい。
その老舗が絶滅危惧種と言われる
たぬきケーキを作り続けている。
手作りは昔も今も変わらない。
一瞬のためらいの後、パクリ。
甘すぎないバターケーキの風味とチョコレート。
美味しい~
珈琲を飲みながら、彼に温泉の蜂の話をした。
「蜂に己の姿を見たんだ」
ニヤリとして続けた。
そんな2人を上から見ていた猫君。
聞いているのか、
眠いのか、
うつろな目で何かを思っている風だ。
彼が帰る頃、椅子に座ってこちらを見ていた。
「美味しい物を食べただろう~」
温泉とたぬきケーキと猫君に癒された日。
さて、久し振りに小さな命と真剣に遊ぶことにしよう。
志たあめや
〒027-0501 岩手県下閉伊郡岩泉町岩泉字下宿25