『Masayoshi Takanaka』–『The Rainbow Goblins』[1981] Prologue>
<音楽が流れます、音量に注意.>
仕事が一段落して中華ざるが食べたくてたまらなかった。
盛岡の老舗そば屋「橋本屋本店」へ向かった。
歩きながらスタッフが話し出した。
「中華ざるが食べたい」か、「中華ざるを食べたい」なのか?
「私が好きな物」と「私の好きな物」ではどっちがいいのか?
文法的にはどっちもいいらしい。
「私が書いた文章が雑誌に掲載された」。
「私の書いた記事が雑誌に掲載された」。
という風に「が」と「が」が続くより、一つの方が読みやすい。
「いっそのこと助詞をとったら」と言うと、
「中華ざる、食べたい!」ですかと笑った。
雑誌などでは何より読みやすい事が大切なんだろう。
先頭を切って暖簾を潜ると背中に、
「助詞って難しいなあ~」
まだ引きずっている様だ。
引戸を開けると薄いガラスの涼し気な音色。
南部鉄器の風鈴の心地良い響きが続く。
斜め向かいは迷わず「冷風麺」。
海苔の上に摺った和ぐるみとは珍しい。
美味しそうだ。
こちらは決めていたとおりに中華ざる。
ずず~ッと音を立てて吸い込む。
茹でて水で冷やされた中華麺をつゆがピリッとしめる。
刻んだ海苔がアクセント。
食べるうちにつゆが薄まって柔らかくなっていく。
思えば今年初の中華ざる。
シンプルで美味しい。
蕎麦湯を呑んでいると「日本語は難しいですね」
「そうだね~ ところで冷風麺はどうだった?」
「懐かしい味なのに新しい感じ、美味しかった~」
ようやく笑った。
創業400年。
「橋本屋」の味も時代と共に変わってきたのだろう。
ある老舗の和菓子屋さんで聞いた事がある。
使う原材料も変わっている。
完全に同じ味を続けられないと。
言葉も同じだ。
店の前で別々の方へ。
もっと日本語を学習しなくては。
シンプルで美味しい中華ざる。
そんな文章を書きたいもの。
などと思った帰り道。
橋本屋 本店
〒020-0015 岩手県盛岡市本町通1丁目16−6