J.S. Bach: Invention No.2 in C minor, BWV773
<音楽が流れます、音量に注意>
待合わせ場所に近い駐車場に停めた。
よく使った場所だ。
まだ少し時間がある。
辺りを歩いてみよう。
フェンスの網目を覆い尽くす朝顔。
終わった花の隣で咲き誇る。
よく見ると蕾も。
そろそろ風も肌寒いのに。
地上に生え出し、間もない。
まだツルは短く、絡まる物を探しているようだ。
細い茎が一生懸命、見事な花を支えていた。
綿毛が奇麗だ。
今にもふわりと空に浮びそう。
ゆっくり歩くと色々な花が見えてきた。
今まで何年も何度となく、通り過ぎていた場所。
目を凝らすと別の世界があった。
「そんな事も知らなかったの?」と雀に笑われている気がした。
今もタンポポが咲くとは知らなかった。
「待った?」
約束していた友達が角を曲がって現れた。
時間を忘れていた。
すぐ近く、そば処「若園」の暖簾を潜った。
窓や戸は開け放たれている。
心地良い時は短く、北国ではもうすぐ暖房が要る。
風が冷たくなったらどうするのだろう。
小上がりに座った。
彼に、早く着いたので道端の花や雀を見ていたと話すと、
「似合わないね~」と笑われた。
「お待ちどうさまでした。」
彼の頼んだ蕎麦が先にきた。
「冷やしめかぶとろろ蕎麦」
深い緑のメカブと白いそばにのる黒い海苔、カイワレが少し。
「奇麗だなあ~ お先に」と食べ始めた。
「美味しそうだね。」と言うと、
「あげないよ!」
子どもみたいで吹き出しそうになった。
ほどなく天ざるがきた。
品の良い蕎麦は、喉越しも心地良い。
海苔の香りと蕎麦の風味がふんわり。
「そう言えば、M君が、ここの蕎麦が一番好きだと言ってた。」
と言うと、
「オレもかなり好きだなぁ~」と顔を上げた。
「オマエはどうなの?」と聞かれ、
「職場が近かったせいもあって開店の頃から来ている。」
と答えた。
昔は、よく天丼を食べた。
一粒も残さず食べ、元気に職場へ戻ったものだ。
出前も頼んだが、なるべく外へ出たかった。
「若園」「北田屋」「東家」や「はすの屋」「龍華」「北京飯店」「えぞっこ」など、
あるいは、桜山界隈で、「パイロン」「パイカル」などなど。
しかし、辺りを見る余裕がなかったようだ。
道端に咲く花も雀にも目が止まらなかった。
会計をしていると、
親方から「いつもどうも!」と声がかかった。
「こちらこそ、美味しかったです。また来ます。」
道路に出て「来月にでも、また」と別れた。
車の傍に、まだ雀がいた。
屋根から、ちょっと距離を置いて雨樋にいる雀に思わず苦笑い。