The Spy Who Loved Me • Nobody Does It Better • Carly Simon
<音楽が流れます、音量に注意>
盛岡から出かけ、
北上での用事が夕方には終わった。
せっかく来たのでロシア料理の「トロイカ」を覗いてみた。
夕飯には少し早い時間で空いていた。
「食べて帰りますか?」
一緒の人を誘った。
席と席も離れ、テーブルには大きなアクリル板。
互いに顔と手で会話。(笑)
お薦めを聞かれ、「ピロシキは外せない!」
向かいはロールキャベツを頼んで、アツアツをふうふう。
右手で輪を作って微笑んだ。
グラタンのように見える。
中から、登場するロールキャベツ。
美味しそうだ。
グラタン好きとしては、ひと口食べたかった。
こちらはボルシチ。
煮込まれた肉と野菜。
濃厚そうに見えてあっさり。
いくらでも食べられそうだ。
向かいの人に右手の親指を立ててみせた。
柔らかい肉は、口の中でとろけていく感じ。
それぞれピロシキも。
魅惑の狐色と焼きたてのいい香り!
これもアツアツ。
少し待ってから二つに割った。
沢山の具。
勝手な感想だが、
以前よりあっさりとした感じで、ますます好み。
とても美味しい!
向かいも頷きながら食べている。
盛岡に帰って珈琲を淹れた。
そう言えば、あれは中学2年の夏休みだった。
盛岡の街を父について歩いていた。
繁華街に「チャイカ」という喫茶店の看板。
通りかかると父が言った。
「チャイカとはロシア語で『カモメ』だ」
そして「ヤー チャイカ」と少し遠くを見て言った。
父は、シベリア抑留から無事帰還した。
捕虜時代の話を少しだけ聞いたことがある。
吹き荒れる風は、雪を舞い上げ、白と黒の世界に小屋が立ち並び、
中には無数の凍える人々。
そんなイメージだけが残っている。
その日、帰る前に本屋に寄った。
好きな物を1冊買っていいと言う。
小さいが分厚いロシア文学の短編集を手にした。
学生時代に家を出て二十数年が経ち、
父は入退院を繰り返すようになった。
ある日、実家に行くと父の部屋の書棚にあの本が並んでいた。
一度、トロイカに連れて行けばよかった。
だいぶ後で「ヤー チャイカ」の意味を知った。
1963年、当時はソ連の女性初の宇宙飛行士テレシコワが、
ヴォストークに乗り宇宙飛行に成功。
彼女のコールサインが「チャイカ」だった。
当時、女性が初めて地球と交信した言葉として話題に。
チェーホフの戯曲「かもめ」のイメージを併せて紹介された。
戯曲ではニーナという女性が愛を失うも、望みを捨てず、
空に飛び立つことを夢を見て「ヤー チャイカ」と言う。
「私はかもめ」
父は、どこで知ったのだろう。