Gabriel Fauré - Apres un Reve, Cello and Piano
<音楽が流れます、音量に注意>
1年前に入院してから、
古い友達や懐かしい人と逢いたいと思う一方、見知らぬ風景にも心惹かれる。
昨年の夏、コロナで五所川原の「立佞武多」は中止。
長年続いてきた楽しみが途切れ、今年も祭りはない。
毎年、勇壮な立佞武多を見ながら思った。
この近くの町が出身のY君。
どうしているだろう。
帰省して祭りを見ているだろうか。
もう、三十年以上も逢っていない学生時代の友人。
昨年、ひょんな事から実家の住所を知った。
祭がなくても行きたい和菓子屋さんもある。
先日、思い切って五所川原に向かった。
ナビに住所を入れると真っ赤な線が彼の実家へ導く。
自動車道を走り2時間半で着くと表示。
なんだか近く感じた。
午前11時過ぎに盛岡を出た。
十数年間、八甲田で春スキー、山を下って弘前城の桜。
夏は立佞武多。
毎年、走ってきた道が、いつもと違って見えた。
黒石で高速を下りた。
「金の銀杏(イチョウ)」で遅めのランチ。
ここも数年振りだ。
黒石の小店の並ぶ通りの裏手。
静かな佇まいは変わらない。
若き大将は、前より落ち着いて見えた。
地元の蕎麦粉、十割。
蕎麦の風味が強く、味わい深い。
「先に、そのまま食べてください」と言う。
同じだ。
違うのはマスクだけ。
「写真、いいですか?」
「いいですよ、でも早めに食べてください。」
ますます蕎麦の風味が増した気がした。
美味しかった。
帰りがけ「どうして『金の銀杏』なんでしたっけ?」
外の樹を見ながら聞いた。
「紅葉すると金色なんです。」と微笑んだ。
初めて見た笑顔。
「アスパラですか」と聞くと、
「そうですね、実がなってます」と微笑む。
一枝、折ってくれた。
この実も初めてだ。
ナビは、自動車道で北へ向かい浪岡インターから、津軽道へ導くものと思っていた。
ところが、一般道に赤線。
運転手の好みを知ってきたかな?
田園と昔からの街並みが交互に続く。
初めての道はワクワクする。
どんどん目印が迫る。
「まず、実家にはいないだろう。」
「確かお兄さんがいたはずだ。」
「考えたくはないが、生きているとも限らない。」
想い出が蘇り出す。
真ん中分けのストレートの髪。
黒縁の眼鏡。
十数枚の便箋に書かれた西行の話。
朝から晩まで一緒に見た映画。
彼の部屋中に足の踏み場がないほど、高く積まれた本。
ナビの案内が終わり、車を停めて番地の家に歩いた。
玄関に「忌中」の張り紙。
男の人が出て来た。
きっとお兄さんだ。
学生時代の友人で、近くに来たので寄ってみたと告げ、
彼の連絡先を教えて欲しいと言った。
すると家に上がれという。
奥さんが冷たいお茶を出してくれた。
張り紙は昨年に亡くなったお母さんの一周忌だった。
彼に電話してみると言われ、心踊る。
ほどなく、お兄さんが携帯をこっちに差し出す。
スマホから驚く声。
一瞬で青年にかえった2人、話は尽きない。
まずは連絡先を交換し、ご夫婦に御礼を言って家を後にした。
五所川原に寄りたい所があり、近いがナビに従うことに。
お兄さんが笑みを浮かべて話していた。
「時々、手紙で最近見た映画の批評を長々と書いて来るんだ」
仲良しの兄弟だから、突然、弟を訪ねて来た私をためらいもなく、
家に上げてくれたのだろう。
三十数年の時を経て、彼と新たなつき合いが始まるだろう。
途切れてしまった立佞武多が、訪ねてみるきっかけになったのかもしれない。
残りの人生、悔いのないように生きたい。
彼は、岩木山と、この空を見て育ったのだ。
津軽の空は、どこまでも広かった。