「いつも、ありがとう」と言いたくなる人との夜

 

その夜、何故か待合わせを桜山神社の門にした。

 

ちょっと出遅れてしまい盛岡の大通りを西に急ぎ足。

冷える外での待合わせだ、信号に掴まる度に時計を見る。

なんか忘れていた感覚だ。

 

なんとか五時半につくと道路の向かい側を歩く姿が見えた。

 

二人で路地を歩いて店を選ぶ。

迷いながらがまた楽しい。

「ハタゴ家」に決めた。

 

その人は、大きな仕事を終えたばかりだが、しっかりと次のステップを考えていた。

仕事は好きじゃないが、与えられ課題をこなさないと気持ちが悪いという。

グラスが開く都度、仕事の話の間に垣間見える彼女の暮らし、人生。

色々なことがある。

傷ついたり、飛び跳ねて喜んでみたりと積み重ねて生きる。

十数年見て来て、今も目の前の人はとても魅力的だと想う。

いい仕事をしているのだろう。
 

<美味しいおでん・大根>

しっとり芯まで汁の旨味が染み渡り、優しく上品で、とても美味しい

 

 

 

数年振りの桜山界隈

盛岡城跡にある桜山神社と岩手県庁の間にある飲食店街。

通称「桜山」

鳥居のある路から、さらに左右に路地が入り組む。

古い居酒屋、中華、喫茶店などが満員電車のようにひしめき合う。

昭和レトロな一角は昔、県庁、市役所などのネクタイ族が目立った。

近頃は若い人達も色々な店を出し、

それが何とも言えない魅力的な雰囲気を醸し出している。

今は、若い人達も多い。

 

 

 


 

 

界隈の真ん中の通りにある「ハタゴ家」の長い暖簾

 

 

 

 

 

「つくね」と「しらたき」も好みの味だった。

ビジュアルどおり、つくねはプリッとしつつ出汁が染み込み、

しらたきは、歯応えありながらプチンと切れる。

勿論、汁も飲み干した。

「美味しい」に話しも弾む。

 

 

 

大満足で、「ハタゴ家」を後にした。

ここには、また来るだろう。


もう一軒回った。、

話し込んでいるとすぅ~っと時間は過ぎ、時計を二度見。

十時半を過ぎていた。

二軒呑んで、五時間、「そろそろ、送ろうか?」でお開き。

 

 

タクシーで送り届けてシートに沈み込む。

 

学生の頃、ニ年生の中頃から時計を外すようになった。

いつも時間を気にしている自分が嫌だった。

学校に行くにも遊びに行くのにもしょっちゅう時計を気にしていた。

 

夏だった。

新宿の伊勢丹前で、昼の11時に数人集まる予定。

しかし、11時半近くなのに電車の中。

それも、まだ赤羽線。池袋で山手線に乗り換えて新宿へ、駅から伊勢丹までけっこう歩く。

最低でも1時間は遅れるだろう。

経験したことのない大遅刻に、小刻みに時計を見ていたのだろう。

山手線に乗り換えてすぐだった。

「おい、変質者みたいだぞ、そんなに時計ばかり見て、時間は止まんないよ」

ビックリして振り向くと四年生の先輩が立っていた。

「待合わせなんでしょ?」

応えると、

「一時間も過ぎれば、男どもは、もうどこかへ行ってるよ、お昼、つきあいなさい」

結局、憧れの素敵な女の先輩に御馳走になった。

別れ際に言われた。

「女の子は待たせちゃだめよ」

 

翌日、友達から電話があり平謝り。そして次の呑み会の話だった。

その頃、携帯が無いので、三、四十分も待つと駅の伝言板に行く場所を書いたものだ。

思い切って時計を外してみた。

街にはあちこちに時計があり、さして苦労しない。

試験も教室にたいてい時計があった。

 

色々なことを経験し、積み重なっていく。

ひと言で傷ついたり、傷つけたりしながら。

あの頃、時間はポケットの中にあったかもしれない。

 

家に着いて風呂に入って、

「今夜は、ありがとう。ビジュアルも味も美味しいおでんだった」なんて呟いた。

なんだかさほど進化していない気がした。