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北国の11月、夜風は冷たくて
その人は、グレーのニットで現れた。
盛岡の古い町並み、肴町で待合せ。
交差点の信号待ちでばったり。
「あら、お久し振りです」
「もう、寒いね」
肩を並べて道を渡る。
「ワインにしません?」
「アッカトーネ」のワインで温まることにした。
ワインが好きなことを初めて知った。
ここの店の入り口は、
入って左に階段を登って右に曲がって左。
ちょっと迷路風。
ドアを開けると知り合いの一団が、楽しそうに呑んでいた。
「ご無沙汰です!」
突然、久し振りの出逢いに盛り上がる。
さて、席について、
ワインリストを見ても分からない。
向かいの人にお任せ。
選んでくれたワインを呑む。
店の人は注ぎながら説明してくれるのに、
呑むほどに言葉達はどこかに零れ落ちてしまう。
とにかく「美味しい」
仕事絡みの話は、大人の雑談を混ぜながら。
なかなか難しいこともある。
雑談は、途切れないが、質問の答えはなかなか浮かばない。
「答えを下さい」
と言いたげな気配。
美味しいものに救われる。
「珍しいですね、黒毛和牛の生ハムなんて、初めて」
注がれるワイングラスを見ていると、
どんな土で、
どんな人が育て、
どんな葡萄が実って、
どんな処で熟成したのだろう。
と想う。
そして、この人は、どんな風に生きてきたのだろう。
色んなことがあって、今のその人がある。
向かいから出てくる言葉は、成熟したワインのようで、酔ってしまいそう。
これから、どんなグラスに注がれて、輝くのだろう。
楽しみな人だ。
そんな「アッカトーネ」のワインな夜は更けて
人は、人からエネルギーをもらう。
なかなか一人では生きていけないものなんだろう。
ほろ酔いの帰り道は、もう木枯らし。
スパークリングワインの小さな泡の様に、次々と色々な想いが湧いてくる。
冷たい風もさほど気にならない。
家のドアを開ける時、ふと想った。
どうしてあの店の名前は「アッカトーネ」なんだろう。
ある映画の主人公にあだ名があり、「アッカトーネ」と言われていた。
乞食という意味だったと想う。
微かだけれど自分の埋葬の夢を見るのを覚えている。
今度行ったら、オーナーに、店の由来と少しワインを教えてもらおう。
せっかく、美味しいワインが沢山ある処に一歩足を踏み入れた。
ワイン好きな人にもつき合ってもらいながら。
「今度、聞きに行こう」と決めたらとても眠くなった。