平成最後の夏に食べる「珍萬の冷風麺」
7月の半ば、食いしん爺は、夏の恋人に逢いたくなった。
大好きな「ざくろ」の冷風麺が今年は、作らないと聞いた。
「でも、珍萬がある」
いそいそと出掛けてドアから中を覗いていた。
十二時前に着いたので、気に入っている窓際の席に座れた。
食いしん爺の夏の恋人「冷風麺」
まず、そのビジュアルに見とれる。
綺麗に、各々が個性的な具が麺を隠すほどに並ぶ。
「また、逢えてよかった」
「もう、忘れてたでしょ」
品があって美しいだけじゃない。
それでは、一つ一つ詳しく紹介しよう。
<盛岡菜園 珍萬の冷風麺>
もう珍萬には、十数年は通っている。
でも、4年前に初めて出逢った。
一目惚れ。
それまでメニューに書いてあっても目に止まらなかった。
もし、メニューに写真があれば、もっと早い出逢いがあったはず。
上質の酢が少し強めの甘酸っぱいスープに心を掴まれた。
「大人の恋は、甘いだけじゃなくてコクも必要」
「誰にでも、そんなことを言うんでしょ」
中華ハムを束のまま口に。
噛むほどに拡がるしっかりとした旨味。
「いつも、一気にいきたいんだなあ~」
「焦らないで」
錦糸卵は、ふんわりとして、
優しい味。
これも箸で束ねて、一気に食べる。
「優しい味に癒されるんだなあ~」
「それは、あたしじゃない! 誰のこと?」
清楚ないでたちで、ぱりぱり、シャキシャキっと。
キュウリもスープに浸して束で掴む。
「野菜から食べるんだよね、本当は」
「たまには好きにしていいのよ」
海老も入っている。
ほどよく甘く、ポクポクとして美味しい。
「言うことないね~」
「あるでしょ、大切な言葉」
好きなクラゲは、スープに浸して、プリリッとした歯ごたえを楽しむ。
麺と一緒に食べる。
「プリッと感がたまらない」
「みんなそうよね、男って」
鶏肉は、あっさりとして柔らかく、とても美味しい。
色々な要素が揃っている。
「柔らかくて、あっさりしてる」
「だから、誰のこと?」
そして核心の麺、スープによく絡む細麺に辿りつく。
今までのプロセスは、このためにある。
一気に口の中へ音を立てて吸い込む。
「あ~」 美味しい。
そして、蟹棒を食べる。
蟹風味をゆっくり味わって、また、麺に戻る。
時に繊細に、時に豪快に。
「とてもゴージャスなんだ」
「誰と比べてるの?」
あ~、美味しかった。
暑さを忘れる夏の幸せ。
「また、来年の夏には、来よう」
「うそつきね~」
「どうして!」
「珍萬の冷風麺は、冬も食べれるのよ」
「あれ、そうだっけ、とにかく大好きなんだ、明日もまた食べたいぐらい」
「ちゃんと、眼を見て言いなさい」
通年で作るとちゃんとメニューに書いてあった。
雪の降る夜、
暖かい店内で食べるのもいいと想った。
「夏の恋人」は「冷風麺」
店の名は出て来ないが一度、仙台の元祖冷風麺の店で食べたことがある。
スープがとても甘酸っぱいという記憶がある。
とても美味しかった。
これは、錯覚かもしれないが、
スープや具にしても、なんか同じ線上にある様な気がした。
「もう一度、仙台に行って確かめなくては」とちょっとしつこい食いしん爺。
「しつこいと嫌われるよ」って聞こえたきがした窓際の席。