盛岡の街を歩いていた
日曜の夕方、6時前なのに、もう真っ暗。
本町から中央通りの方に歩いて内丸ビルの前。
2階に入っている飲食店の看板に、
「はたや」
と言えばトンカツ、久しく食べていない。
<久々に食べた「はたや」のトンカツ衣から美味しくて>
丁度、夕飯時、すぐ階段を上った。
そうそう2階は、「内丸ビル名店街」
少し、店の並びも変っていた。
「はたや」に入ってみると座敷の奥の方にテーブル席があった。
やはり変っていくものだ。
隣のテーブルで、カツカレーを食べている仲良し風とわかる3人。
テーブル席が、ありがたい世代。
ちょっとした昔話と今の趣味の会の話しが織り交ざる。
「美味しかった」と口々に帰って行った。
お茶を運んできた奥さんに尋ねてみた。
「始めは菜園にありましたよね、もう何年になりますか?」
「あのね43年になるんですよ」
「え~!そんなに」
「子供が産まれた年でしたから、その子は43才です」と笑う。
しばらくして、奥さんがゴマを持って来た。
「分かってますよね」
「はい」
ゆっくりゴマを擦る。
初めて食べたのは、菜園にあった頃。
ランチに急ぎ足で行った。
そうじゃないと混んで時間に間に合わなかった。
次々と入り口に吸い込まれるていくネクタイ族とОL。
出遅れると座れない。
あの頃、ちゃんと噛んでいたかな?
とにかく回り全体が早食いだった。
今は、ゆっくり噛みしめる。
この衣、パン粉が特徴。
食パンを独自に加工したパン粉が衣だ。
サクサクと音がする。
そしてゴマをすった小さなすり鉢に、自家製ソースを入れる。
美味しい。
サクサクの食感に続いて、
豚肉の旨味と甘い脂が口の中にしみだしてくる。
満足して店を出る。
帰りは、岩手県民会館の方に出てみた。
懐かしい路地の様な2階の通路と階段。
仕事仲間と連れ立って、そばを食べたり洋食だったり、よく食べに来た。
昼となく夜となく、何度行き交ったことだろう。
いったい、いつ以来だろう。
十年、二十年・・・
あの頃は、ガツガツ食べながら仕事の事を話していたのだろうか?
それとも単なる雑談だったのか。
ひとつ想い出した
先輩で、学生時代から社会人になっても合唱をしている人だった。
クラシックが好きで、すぐ裏手の岩手県民会館のあるコンサートでの話を聞いた。
その時、何となく音楽の話をしていたからだと想う。
「クラシックのある曲ではね、サビ的なところで、立って拍手してもいい場面があるんだ」
という風に話していた。
先輩は、その楽曲を演奏するコンサートが岩手県民会館であり、張り切って行った。
演奏を聴いていた男性コーラスグループの仲間数人と、いよいよその場面。
すくっと立ち上がったそうだ。
すると、後ろから罵声。
「なに立ってるんだ、早く座れ!」
ご飯を吹き出しそうになった事を想い出した。
もう、看板、通路も階段もレトロ感。
その中に自分の想い出が沢山埋まっているのだ。
この街で、海ほど山ほどの出逢いがあり、別れがあった。
そして再会も。
何気ない一言でも傷つく時代から、まあ何とか平静でいられる様になった。
秋の深まりを告げる冷たい風の街を歩きながら、
想い出を掘り起こすのも楽しそうだ。
いや、楽しいばかりじゃない、どこかに隠れていた切ない想い出も、
もう滲み出て心に広がってきた。