盛岡 八幡通り、真ん中あたり

 蕎麦屋「ごん八」

 

8月31日

11時半過ぎに、カウンターに座った。

 

 

「ざる蕎麦」

「はいよ!」

いつもどおり、

ただ、もう、ほぼ満席。

これでは、12時半には、売り切れるだろう。

 

 

権八の由来を親方に教えてもらった。

野球や共通の知合いの話、

たまにライトな悪口(笑)

サラリーマン時代のこと、

カウンターの中で、

おかみさんとの言い争い。

 

 

「権八ってのは、紅葉おろしのことで、

一口で言うと、歌舞伎で着物を脱ぐと肩から背中に紅葉の綺麗な彫り物が

出て来る場面があり・・・・・・」

と聞いた。

 

蕎麦猪口集めも趣味で千個を超える。

珍しいものも見せてもらった。

 

 

 

 

黙々と蕎麦を食べては、

想い出す。

忘れていれば、切なさも軽いのに。

蕎麦の太さを温かい蕎麦と、冷たい蕎麦で変えている。

ある日、

「だれも、分からないんじゃないの」

と奥さんが言うと

「分かる人が分かればいいんだ!」

 

 

あっと言う間に、蕎麦は、あとひと口分。

タレはつけず、

蕎麦だけで味わった。

美味しかった。

蕎麦の風味が活きていた。

 

 

馴染みのお客さんも食べ終えて、

「明日から、どこで昼飯食べようかな?」

「なぁに、色々と知ってるくせに!」

店に皆の笑い声。

 

 

食いしん爺も立ち上がった。

「今日も美味かった」

「どうも、ありがとうございました」

深々とお辞儀をし合うのは、初めて。

最後に、聞いてみた。

「薄焼きは?」

「蕎麦じゃなくて、薄焼きですか!」

また、皆の笑い声。

まだまだ、人生これからの2人に、

色々聞きたい事もある。

でも、なるべくいつもの雰囲気で帰ろう。

 

 

松尾神社のお祭りには、

薄焼きを食べれるかもしれない。

生姜風味で絶品で、ファンも多い。

 

来年の再会を想えば、淋しさも半分以下。

 

 

やはり、

親方も奥さんも、

いつもどおりに振舞っているものの複雑な想いは、

隠しきれない様だ。

出ようとして、

あれ? 

暖簾を出す暇もなかったようだ。

 

「おい、暖簾が出てないぞ!」

親方の声と店の中の笑い声を背に、

店を出た。

沢山、この店にも沢山の想い出がある。

日常に埋もれていただけ。

 

八幡の灯が、また一つ・・・・

8月31日 「ごん八」閉店