<音楽がでます、音量に注意>
「もう、昼、過ぎましたね」
打合せが終わると、もうすぐ1時。
「ご飯、どうですか? 今日、後は終わりなんで、食べたいと思って」
たまたま、食いしん爺も4時まで空いている。
「そういえば、峠の茶屋、復活したそうですね?」
食いしん爺としても気になっていた。
決まった。
早速、出発。
<目的は、これ!>
積もるほどではないが、
盛岡の街は、雪が降ったり止んだり。
雫石辺りは、見渡す限りの雪景色。
春木場を過ぎると信号も峠の茶屋までない。
どんどん、奥羽山脈の懐深く入り込む。
雪は深く。
カーブが続く。
仙岩峠のトンネルを抜け、
さらに、幾つものトンネルを抜け、橋を渡る。
時折、激しく降る雪。
峠は、真冬に逆戻り。
しかし、三寒四温とは、先人は上手いことを言う。
ひと休み。
白と黒、墨絵の世界の中にいる。
3月から、従業員が力を合わせて復活!
店の中は、お土産などの棚は、無くなったものの懐かしい光景。
食券を買い、
半券をテーブルに置くと、
「なんか、ここの想い出あります?」と彼。
だいぶ前、
小学生3人を乗せ、朝早く盛岡を出て、
田沢湖スキー場で滑り、午後、2時頃には盛岡の親に送る予定。
まだ、時間もあり、峠の茶屋に寄った。
一番下の小学2年の男子が顔を歪めて言う。
「なんだ、おでんかぁ~、焼肉がいいのに」 高学年の二人は、爺を見ないで頷く。
3人の背中を押して中に入る。
4人で、おでんを囲む。
諦めきれない顔の小2男子は、無表情で大根の切れ端を口に入れた。
「染みてる~ 旨い!」
それから、数分で二皿のおでんは消えた。小2男子は、残った汁まで。
続いてテーブルに載った中華そばを競う様に食べ始めた。
おでんの味は大人になっても、きっと三人の心に染みている。
まだ、寒い冬だから、
温かい、おでんと中華そばがいい。
スタッフに声をかけた。
「ありがとうございます。みんな、もと働いていた従業員ばかりでやってます」
味は変わらないと言った。
「ありがとうございます。頑張ってますので、また来てください」
相変わらずの極細麺は美味しい。
「僕の想い出を聞いてくれます」と彼が話し出す。
4、5年前の事ですが、おでんを食べていると覚えのある声。
一緒の人が、おでんに夢中になっている隙に、斜め後ろ向いた。
片手で髪を耳に挟みながら、中華そばを口に運ぶ女と眼が合った。
一瞬、麺を掴んだ箸が止まる。
すぐに視線を外すと向かいの男に言った。
「今まで何度か食べたけど、なんだか今日は、最高に美味しい!」
大袈裟に身体を揺すり、不自然な笑い声。
女の人は怖いね~と言うと続きがあった。
彼と一緒の女は、優しそうに微笑み、言ったそうだ。
「スキー帰りに、よく食べたけど、今日のが、一番美味しい」
「食いしん爺さんにも、あるでしょ、似た想い出が」
もったいぶって、ニヤリ。
ハンドルを握りながら、想い出すのは、
「はい、これ、記念にね。気をつけて帰ってね、気をつけてね」」
貰った峠の茶屋のマッチの小箱は、幾つも部屋にあるはず。
おばあちゃんと話した事や亡くなった旦那さんの顔が蘇る。
それぞれ、人の心に深く染みた想い出がある。
そして、花巻のマルカンデパートの大食堂といい峠の茶屋と復活する話は、心も温まり、とても楽しい。