<音楽が出ます。音量に注意>
月に一度は、ここに来る。真夏は別にして。
「今日こそは、綺麗に焼こうね。」
「よし、頑張るか!」
腕まくりして、気合十分。まるで高校生の様な笑顔で向き合う。
栃木県の宇都宮の南。
雀宮駅があり、その周辺には、居酒屋、スポーツ店、ディサービスから医院まで「すずめ」という名前がつく。
地図には、雀神社も、お好み焼き屋もある。
いつだったか、マスターから聞いた。
「ネットで見てください。それで、お客さんには、とにかく腹いぱい食べてもらおう。という想いで店を始めたのです。
そして、店の名前を母の出身地からとって『すずめ』にしたのです。」
今のマスターは、注文どおりの材料をテーブルに置くとサッと奥に籠る。
後は、客が好き勝手に焼く。食いしん爺は、そこがとても気に入っている。
一見、不愛想に見えるが話すと雑談に花が咲く。
盛岡駅から開運橋を渡り、中央通り、大通りを東に行くとどちらの道でも中津川に架かる中の橋に辿りつく。
川の町では、道は橋に集まる。
橋を渡ると雰囲気が変わる。古い建物が目立つ。
東に伸びる国道106号線に並行し、すぐ南に八幡町の通りがある。
一直線の道の正面に盛岡八幡宮の紅い大鳥居が見える。
通りの真ん中に番屋があり、その斜め向かいにお好み焼き「すずめ」がある。
番屋とは、昔の火消し集の拠点で今も当時の雰囲気を残して建てられている。
「今夜は、これでどう?」疲れていても、笑ってしまう。
この、ジョークに何度も救われた。今夜は、ホットウーロン茶で乾杯。
「どうして、この人は次から次へと、こんなことを思いつくのだろう。」
と思っていると、
「ニヤニヤして気持ち悪いんだから!」
さて、いつものシーフードの準備OK。
まず、ラム焼き。沢山のモヤシ、キャベツと焼く。臭みなどなく柔らかく美味しい。
ポテトとソーセージも焼く。
焼きあがりも間近! 顔の下には具沢山のシーフード。
ビジュアル的には、今夜も失敗かな。でも、鰹節が、ほくほく、熱々の上で踊り疲れてソースに絡まり、さらに青海苔も仲良く合体。海鮮ミックス、いい味だ。
いよいよ始まった冬季限定の塩スープの餃子。シンプルだが丁度良い塩加減。美味しい。
〆は、豚焼きそば
これが楽しみな食いしん爺の大好物。
爺的にはモヤシをさっと先に炒め、隣で麺を焼く。そして混ぜ合わせてソースをかける。
何ともいい匂い。
焦げたソースの匂い。たまらない!
鉄板のソース焼きそばの出来立ては例え様の無い美味しさ。ソースが焦げる匂い。
仕上げは、特製スパイス、「笑顔」をたっぷり振りかけて焼きあがる。
モヤシも、たっぷりでシャキシャキ。
五感で味わう贅沢。
「爺の好き勝手八幡界隈、一押しグルメ」
「忘れかけていた、ありがとう」
盛岡八幡宮を中心とした八幡界隈は、お祭りの街で、年中、レトロな雰囲気に満ちている。
この街に居ると落ち着く。生きて来た時代を振り返り、ノスタルジーに浸る。
それだけじゃない。冬の鉛色の空の下、通りや路地には何かが秘かに呼吸している様な気がしてならない。
店の外に出ると薄すら雪景色で吐く息も白く伸びる。
でも、お好み焼きと笑顔のおかげで身体も心も温かい。久し振りにゆっくりと満たされた時間を過ごした。
ふと、自分の周りの全てに感謝の想いが湧きあがり、呟いた。
近頃、忘れていた「ありがとう」
「えっ、なに?」
「いや、なんでもない。さあ帰ろう」