盛岡でも32度。
涼を求めて車を走らせる。
もう10年以上も前、名古屋から来た大学の先生が話していた。
「盛岡に住んで良いところは、ちょっと車で出かければ、大自然の真っただ中に行ける。」
いつも、街から抜け出し山並みを近くに見ると思い出す。
今日は、岩手山の麓を目指す。
北東に30分も走れば、辺りは緑。エアコンを止め、窓を全開にして涼しい風を入れる。
春子谷地の湿原の近くに着く。春子という名前がいいのと、ここからの眺めは道路から、かなり下がってから岩手山が立ち上がって見え、ぐっと山の質量を感じるのだ。
道端の「ぜん」という看板に誘われて小路に入る。
ベランダから庭が広がり、すぐ先に岩手山がある。
「あっトンボだ」
喧騒を忘れるとは、まさにこのこと。しばらく庭を歩いてから店の中に入った。
春子谷地湿原はこの林を降りる。そのうちに歩きたい場所だ。
珈琲を飲もう。
珈琲とシフォンケーキとチョコスティックを頼んだ。
もう、3時になる。美味しいおやつの時間だ。
美味しいおやつを食べ終えて目に留まったのがストーブ。随分、お洒落な薪ストーブだ。オーナーの夫婦に聞いてみた。
「これは、国産じゃないですね?」
「この、ストーブは、ノルウェー製です。」
やはり。食いん爺は、北欧だと睨んでいた。
このチップが種火で薪を燃やす。手入れも簡単、とのこと。
「けっこう、高かったんじゃないですか?」
「ストーブより、なにより、煙突です。これが高かったのです。」
なるほど、立派な煙突だ。
きっと、暖房設備で軽自動車が買えそうだと食いしん爺は思った。
すると、
「前にも、いらしてますよね?」
「いえ、初めてです。ここは、冬のスキーで通ったりしますが、気になっていましたが入ったのは、初めてです。」
「あれ~、そうですか・・・」
どんな人と勘違いされているのだろう。まだ、腕組みをして首をかしげている。
少し、陽が傾いてきた。
爺の好きな時間だ。
オーナーのご夫婦は、ここが分譲されている時に、通りかかり、岩手山を望む景色に一目惚れした。それで、とって返してその日のうちに、内金を入れたそうだ。それから10年。冬もあの薪ストーブを焚いて営業している。
スキー帰りには、もってこいだ。ストーブやスキーと真夏に真冬の話は、なんだか楽しい。今度、このカフェで二人から熊や動物たちの話しなどをゆっくりと聞くことにしよう。色々と楽しそうだ。しかし、冬が来る前に春子谷地を散策しなくては。
昔、この一帯は沼地だった。
岩手山麓の鞍掛山に炭焼きの一家がいて春子というそれは美しい娘がいた。春子は、沼の主と恋に落ち、その沼に身を沈めてしまったという悲しい言い伝えがあり、それで春子谷地と名付けられたという。
さて、そろそろ帰るとしよう。暑いアスファルトの街も少しは、涼しくなっただろう。