その夜の2軒目は、「SPEAK LOW」に行った。
初めての店をブログに書くことは滅多にない。今回は、例外。間違いなく時々、呑みに行くことになるだろう。
SPEAK LOWの響きは、盛岡食いしん爺の勝手な思い込みだが、
「耳元で優しく、ささやいて」
あるいは、もっと、異訳する。
「ちゃんと眼を見て、好きだと言って」
本来の訳はともかく、ここまで感じたい。
「SPEAK LOW」
8時ちょっと過ぎに地下の階段を降りたが、店のドアは、閉まっていた。
「残念ですね」
とY君が言う。О君も続く。
「金曜の夜に休みですかね?」
3人で階段を登りきると、やたら急ぎ足の男の人とすれ違った。3、4段降りて急に振り向く。
「ひょっとして、お客さん?」
「はい」
「5分ぐらい待っててもらえば」
と言って店の方に急いで行った。
道端で、話して5分もたたないうちに降りた。店の灯りがついたからだ。
中を覗いて、即、気に入った。
勿論、誰もいない。
「入りますよ!」
と声をかけると、
「どうぞー」
と奥から返事があった。
でも、店の雰囲気というものは、客が座って呑んでから決まると思っている。
ナッツ好きの食いしん爺の手が忙しく動きだす。
しかし、その晩の話は、何故か重くどんよりとしてきた。
人は、色々と人生を抱えているのだ。
2人をそっとしながら、食いしん爺は一人、妄想にふける。
「そうじゃなく、もっとこっちを見て」
「SPEAK LOW」
「私の眼を見て好きだと言って。そうしたら信じるわ。騙されてもいい。」
しばらく、大人の話の二人を放っておいた妄想食いしん爺が我に返る。1時間ほど過ぎていて2つのテーブルが埋まっている。それぞれのテーブルで楽しそうな笑い声が聞こえてくるが邪魔ということもない。客が入り、出来上がってきた店の雰囲気は、いい。やはり、時々来る場所になるだろう。
カウンターや丸く小さなテーブルに腰かけて長い髪を耳にかけた女性に、SPEAK LOWしたいものだ。
この店に来たら、「小声で話して」とか「うるさい!」と言われない様にしよう。
「SPEAK LOW」にそんな使い方もあったりして。
JAZZは、詳しくないが、一人、艶のある妄想にふけるほど心地良い。
二人の肩を叩いた。
「さあ、引き上げようか?」
ここを教えてくれた人に、感謝の夜。