朝が弱いのに、いつになく頑張り、朝一番の新幹線に乗り込んだ。





    出発。いつもの様に滑らかに加速する。席は東側。朝の光が眩しく入ってくる。








    昨年の十月下旬のこと。


   爺は、一大決心をして長野の八方尾根まで日帰りの弾丸トレッキングに挑戦することにた。


    昔は、ちょくちょく山に登っていたものの年齢とともに、仕事の責任も重くなり、責めるより


守りに入っていたのかもしれない。

    時間が、少し自由になってきたら、寝た子が起きた?


    昨年の夏に、ある先輩がちょっとした段差で転倒。思わ怪我をした。重傷だった。


    爺は、思った。


    4、5年前までは、金沢にも車で行った。かなり疲れたが、それ以上に楽しさの方が勝って


いた。


    もともと運転が好きだった。同乗者にも運転してもらったが、ほとんど走りとおした。





    しかし、そう、いつまでも体力が続くわけでもない。


    悔いを残しては、つまらない人生になる。


    もう、「忙しい。疲れている」などの言い訳は止め、思いついたら行動してみようと思った


のだ。


    大宮で乗り換え。


    やはり、ブームのさなか。北陸新幹線は、ほぼ満席状態。


    しばらくすると市街地が途切れ、耳がおかしくなる。軽井沢への軌道だ。


    スマホで標高と気圧を見ていると標高は、みるみる上がり、逆に気圧は、反比例。下がる


下がる、面白いほど下がる。





    大宮から約1時間で長野駅。


    長野で降りる人は意外に少ない。そ誰かが゛話していたな~ 北陸新幹線開業で「金沢が、


一人勝ちの様だ」




    長野駅から、バスで白馬へまっしぐら。


    一時間ほど。窓の外を見ていて飽きない。





    アルプスの麓に近づくと白馬三山や五竜の荒々しい稜線が眼に飛び込んでくる。 ここ


からでも、とてつもない質量を感じる。


    北上盆地から見える柔らかな山並みと違い、人を拒むかのような稜線が荒々しいのだが、


それでいて美しい。





    白馬は、元気だった。春から秋にかけては登山に輪をかけてトレッキングブーム。


  冬のスキーには、八方のパウダースノウを求めてオーストラリアからロングステイで大勢


やって来るそうだ。全国的にスキー場関連が低調な中、白馬には山用品の店も営業し、


あちこちで目立つ虚しい建物はあまり見かけない。


   早速、ゴンドラに乗り、リフを二本乗り継ぐ。これで、一気に1,800mを越えてしまう。リフト  


  の山頂。つまりスキー場の最高地点にカフェがあった。まずは、小休止。


   何せ、ここまで新幹線2路線、バス、ロープウェイ、リフトと乗り継ぎ1,800m地点でコーヒー 


  を飲んでいるのだ。


    

   素晴らしい天気! 盛岡の晴れ男の面目躍如。(笑)










   いよいよ、トレッキング開始。ゆっくり、八方池山荘(1,830m)から歩き始める。





    


   登りは、ガレ場的なコースを行くことにした。帰りは歩きやすい木道コースを降りて来れば楽


  で景色も違う。


   石神井ケルン(1,974m)~第2ケルン~八方ケルン(2,035m)に着く。すでに岩手山の山頂と   


  変わりがない。


   「こんにちは、いい天気ですね~」と声がかかる。










 






    「こんにちは」


    と返事をしながら、顔の汗が顎に溜まってきた。これは、まずい。1枚脱いで顔や首から


   肩、背中の手の届く範囲を


   念入りに拭く。 


    山ではみんな気軽に挨拶をする。自然に囲まれ目的が同じだ。それが、自然なコミュニ


   ケーションに繋がるのかも?





    第3ケルン(2,080М)到着。


    少し、足が辛くなってきた。あと少しだ、ゆっくり行こう!


 


    登れば登るほどに変わる景色。





 






  


    


    足取りは快調だが、休憩が多い。(笑)


    でも、汗をかいては、やっかいだ。後で背中から冷えてしまう。


  





   











    ちょっと下って八方池(2,060М)に到着!


    疲れは、一瞬で蒼く大きな空に消えた!


 




       


         風も無く音も無い。登山者の軽やかな歓声が時折こだまするだけ。














    


   湖面は、まさに鏡。静寂の中で微動だにしない山塊の迫力が爺の眼前に。


   


   早朝、薄暗い盛岡の街を駅に急いでいた。


   新幹線を乗り継ぎ、昼過ぎには、この風景の前に立っている。





    


 











      


     凄まじい質量で迫るノコギリの歯の様な稜線が、八方池の湖面に本物同様に映る。


      


     自然という、遥かに、人間のかなわないものの懐に爺は、包み込まれている。 



















絵画の世界だ。



















      圧倒され続ける光景を前に夢中で写メを撮っていた。


      「すいません、撮ってもらっていいですか?」


     と声をかけられた。


      今、自分も撮るので忙しいのになあ~と思って振り向くと。

      素敵な人だ~


      「いいですよ、しかし、今日は、いい天気ですね~」


      男は、単純なものだ。(笑)




      「今日で、この秋、4回目のチャレンジなのよ。ようやく晴れたわ。頑張ったご


     褒美かしら~」          


      と笑う。


      「私は、晴れ男ですから」


      「あらっ!」


      山と素敵な笑顔が距離を縮める。(笑)


      今度は、撮ってもらうことに。


        


      横浜からだそうだ。


      昨日は、金沢観光で富山泊。帰りの朝の青空。「今日だ!」と長野で降りたのだそうだ。


      今は、用品を一式貸してくれるのでヒールで新幹線に乗っても山に登れるとのこと。


      爺も軽装備だが、レンタルは頭になく、日帰りだからフットワークだけを考えたのだ。

      長野駅で友人を残して新幹線を降りたら富山で買った「笹寿司」を二人分持ってきて


     しまったらしいのだ。


      「二人分は無理だから、よろしかったら食べてくれません?」


      「そういことなら、喜んでお手伝いします!」







  







  


  


       


      この絶景で更に「金沢グルメ・笹寿司」が・・・・食べられる!


      すぐそばを通った女子大生らしき数人の一団が、


      「わぁ~、美味しそう~」


      爺ではなく、手の上の「笹寿司」に視線が集中!


      (ひょっとして夫婦に見えるのだろうか? まんざらでもない自分がいる。)      


      まあ、だから旅は楽しい。

       

       


      まさか標高2,00mをこえる場所でアルプスの山々と「金沢グルメ・笹寿司」を食


     べることになり、しかも「素敵な人」と一緒にとは・・・最高です。(笑)


      それにしても「美味しもの」は話も弾ませてくれる。
















       帰り道は、当然に、一緒に下山することに。


       途中から、「五竜」を望む木道コースを行く。




  

       遠くで、白煙が上がっていた。


   










     


     左側に白馬三山を眺めながら下山する。


     右には、五竜などの裏立山が見えた。


        


 




 






    思い切った甲斐があった。来てよかった。













      


朝晩はもう冬。冬は目の前だ。だいぶ下って見つけた真っ赤なナナカマド。














  




               後は、リフトとゴンドラで降りる。













    


    盛岡から大宮乗り換えで約3時間。


    長野から白馬まで、バスで約1時間。 


    ゴンドラ、リフトを乗り継いでスキー場の頂上まで25分ほど(八方尾根観光協会の資料)


    八方池山荘から八方池まで片道1.5Kで往復2時間30分( 同 上 )


    (爺は、往復 ランチ休憩を短めにして、だいたい2時間ちょっと。まだまだ、健脚)


    長野から、レンターカーできたという「笹鮨」さんに長野まで乗せてもらうことになった。


    ドライブ! 


    非日常感が倍になる。




    八方尾根スキー場の麓に、夏場だけの温泉があるというので寄ることにした。     

    温泉まで御馳走様でした。


    充電完了!












    


    冬の写真を見せてもらった。

    下の建物が、今、浸かった温泉の小屋。




 













    因みに、冬は、スキー場ので山頂から、こんな白の世界が眼前に広がるのだそうです。


   





  










     車の中で、


     「実は、2週間前にも、盛岡から日帰りで挑戦したのです。ところが、小雨でした。」


     「あら、わたしも来てたわよ!」     


     やはり神様のお導き・・・・(笑)


     「でも盛岡からじゃ、たいへんでしょう?」


     (遠く離れた田舎だと思っているのだろうなあ~)


     


     「東北新幹線で2時間。大宮乗り換えで1時間で長野ですよ。多分、そちらの方が


    新幹線に乗るまでの時間を考えれば盛岡とそんなに変わらなかったりして」


     「たしかに、なんだかんだと1時間半以上、へたしたら2時間かかるかも。新幹線は、


    早いわね。」


     「今度、競争しましょうか? 盛岡を発つ時間に合わせてもらって・・・」


     「あら、だったら、あたしが盛岡に行くわよ。二時間でしょ~」




     爺は、青春時代には、できなかったやり取りを愉しむ。


     年を重ねて良いこともある。


     「たったの一言」で傷つき、眠れなかったり、息苦しかったり。誤解や嫉妬や・・・・


     今は、言葉に左右され、本質を見失うことが、少なくなった。(鈍感になっただけかも?) 


     それに、青春が「昭和」で良かった~


     たかだか、「メール一本」でさよならを伝える時代では、爺は、やりきれない。


     これは、いつか「昭和ノスタルジー的な話」とかなんかで後日。   


  


 


      その日の2週間前は・・・・・小雨でガスがかかり、視界がきかなかった。   


  

     一瞬、ガスが切れても、このとおり。
衣服が濡れた。





  












   「盛岡食いしん爺」を名のっているのです。ただでは帰らない。

   麓の白馬で「信州蕎麦」をたらふく食べて帰ったのです。蕎麦の故郷、信州は、流石に


  蕎麦の歴史があるところです。とても美味しかった。


 


   でも、みちのくの蕎麦も旨いのです!


 
















 









     


     下山し、麓では、まだ何とか紅葉気分に浸れた。


     長野駅について5時半~6時頃の新幹線に乗らないと大宮で盛岡行きの最終に


    乗れません。


     真似する人は少ないでしょうが、きちんと調査し、無理のない計画をたてましょう。(笑)


     




     1回目のチャレンジは長野見物のし過ぎ。結局、仙台まで行って泊まり、翌朝、盛岡へ。


     そんなわけで学習した爺は、今回は、お見送りまでしていただき無事に乗り換えました。




     新幹線に乗り、目を閉じると八方池の光景が、くっきりと瞼に浮かぶ。


     突っ走った「弾丸 日帰り トレッキング」




     「山」と「グルメ・笹寿司」そして「出会い」  


     車中は爆睡のつもりが、興奮冷めやらず盛岡までほとんど起きていました。


     まだまだ、爺は「青春の残像」を引きずっている?(笑)




     ところが、当然、次の日から、しばらくは疲労困憊。


  









 


   追伸    


    


     その日の、2週間前に行ったとき、帰りのリフト乗り場やゴンドラの駅でスタッフが、 


    みんな口を揃えて、


     「ほんとうに残念です。天気の良い時は素晴らしいので、是非また来てください。満足


    していただけると思います。お待ちしております」


     と心から残念そうに言うのです。





     爺の再チャレンジのエネルギーの半分にはなりました。


     


     このもてなしが、白馬が元気な理由の一つかもしれない。


     盛岡から長野まで、3時間。





     昭和の時代。「特急 やまびこ」で東京まで6時間だったなあ・・・・・














                                                      完