もう少し気の利いた邦題を付けて欲しかったんだが、
久しぶりに骨太の作品だった。
ヒトラー最後の12日間でのガンツを思わせる主演女優の見事な演技には
寒気すら感じた。
(ガンツの方がすごいけどね)

僕は小学生の時に交通事故による頭部外傷で
いわゆる記憶喪失になったことがある。
今もかなり失われている部分があるが。
記憶喪失と言っても、「ここはどこ、私は誰?」みたいな
漫画みたいなのは少ない。
学術的に言うと逆行性健忘retrograde amnesia,
外傷後健忘post traumatic amnesia、この両者をくらった訳だ。

どういう具合かと言うと、退院後学校へ行く道で、この交差点を曲がると
学校があったような気がするんだがどれ位の距離だったかな?
この階段を登って右が教室だったような気がするんだけど、ところで
この廊下の先は何だったかな?
そして、事故から近い記憶ほど失われ、もっと何年も前の遠い
それも強烈な、例えば廊下に立たされたこととか、幼稚園の時に
冬の室内で走っていて倒れて右の手首に火傷を負ったとかは
朧気に覚えているという感じだ。

また、別のcaseで、不倫を重ねる夫に絶望して毒物自殺を図った例が
ある。蘇生したのだが、驚いたことにその女性は幸せだった結婚生活の頃、
つまり新婚間もないころに記憶が飛んでいるのだ。
あれが演技だとしたら世界最高の役者だ。結末は担当ではなかったので
知らないが。

そんな経験から興味を持って「記憶」というのを少し勉強したことがある。
だから、この映画は非常に興味を持っていた。

「博士の愛した数式」「明日の記憶」と同じthemeなんだが、
博士の方は何となく愛らしい、明日の方は壮絶な印象。

このStill Aliceは何というか、淡々と現実を表現するというか、
その淡々さが予想を超える落差を見せつけてくれる。
それが見ている我々に恐怖感に近いものを感じさせる。
そんな演技を主演女優は見事に演じてくれている。

時間軸を長々と2つ使うという演出は好きではないのだが、
その映像の作り方に見惚れて、嫌な感じがしなかったのは
ドラゴンタトゥの女の回想シーンを思わせてくれる。

地味で娯楽性のないseriousな映画だが、強くお勧めする。
これは一人ではなく夫婦で見に行かねばならない映画だと思う。
そして見たとしたら貴兄、貴女に問いたい。

「貴方ならその時どうしますか?」