水漏れ修理もとうとうパッキンの交換では直らず、キッチンの蛇口が新しい物に取り替えられていた。
昨日までと同様、コックをひねるタイプではなく取っ手を上下に動かすタイプなのだが、「出る」「止まる」が逆になった。
つまりこれまで、下げると水が出て上げると止まる……だったのが、上げて出す、下げて止めるになったわけだ。
取っ手を押さえる。が、下がらないからそっと持ち上げてみた。蛇口から水が出る。
ピカピカのパイプに、自分の姿が縦長に映っていた。
手を洗いながら、新しい物はいいなぁ、とふと思う。蛇口と、畳と、ニョ……、いやいや、滅相もない。
しかし身についた習慣とはなかなか変えられないものだ。
水を止めようと思ったとき、つい習慣で取っ手をグイと持ち上げてしまった。
シンクにぶつかり、勢いよく跳びはねる飛沫。
顔まで洗う羽目になったのは、まさか不謹慎な空想のせいだろうか。
ちなみに上下させるタイプの蛇口は、阪神淡路大震災以来、規格が統一されたのだという。
それまでは各メーカーの自由だったらしい。
なぜかというと……。
震災時には、落下物によって蛇口が押し下げられたりする可能性がある。
また日常的にも、飼い猫などがバーに乗ったりするもする。
そうすると水が出っぱなしになってしまうわけだ。
不可抗力で水道の取っ手が動いてしまう場合、圧倒的に「上」よりも「下」が多い。
そこで、上げて出す、下げて止める、が理にかなっていると判断されたのだという。
水道修理屋のおじさんから仕入れたネタを、したり顔で女房が話してくれた。
ふぅむ、なるほどねぇ。
中越地震からも、はや一年か。
かつてよりちょっと横長になった妻の顔を見ながら、平和を願わずにはいられない晩秋の夜だった。